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「片岡俊輔です、緑山第二高校の1年生です。」 隣に腰掛けた片岡は俯いたまま名前を言った。かなり緊張しているのか、膝の上に置かれた拳が小さく震えている。小島はその高校の名前を聞いて言った。 「あそこの学校なんだ。私塾でアルバイトしているんだけど、そこの生徒結構来てるよ。」 まるで合コンを思わせるぎこちない会話が広がる。小島は片岡をどう弄ぼうか、それだけを考えていた。どうやら彼は女性との会話ではなく、目の前にアダルトな本がある状態で小島と話していることに緊張しているのだろう。改めて散乱した遺産に感謝しながら小島は言った。 「なんか、すごいね。こんなにいっぱい落ちてるなんて。」 「そうですね…。」 彼の言葉を思い返す。声変わりの途中であろう片岡の言葉は緊張の色に満ちていた。 「俊輔くん、ここにエッチな本があるっていつ知ったの?」 まるで刑事に事件の真相を暴かれた犯人のように、片岡は言葉を失くしていた。まるで解れた布を縫い合わせるように慎重な声で答える。 「先月、くらいです。たまたま来てみたらたくさんあって…。」 「じゃあ、これを見てしたことあるの?」 初心な男子高校生にオナニーを問う。何だか女性の特権かのように思えた。これが逆であればすぐに警察が動くだろう。片岡はより困惑している様子だった。助け舟を出すかのように優しく続ける。 「男の子なんだから、皆することでしょう。恥ずかしがることないよ?」 そう言って彼の拳に手を乗せる。足を組み替えてワイドパンツに太ももを張り付かせた。薄い服の上からも分かるであろう女性の体つき、片岡にとっては韓国料理に採れたての唐辛子を混ぜ込むほどの刺激に感じることだろう。目の前にはアダルトな雑誌の数々、彼の視線に逃げ場は少ない。 「えっと…あ、あります…。」 最後の方は虫の鳴き声よりも小さかった。ここが新宿にあるオープンカフェのテラス席でないことに、小島は心の中で強く感謝した。人混みにあっさりと負けてしまうほどの声量が、木々の中で鮮明に聞こえる。片岡の心臓を握り締めたかのように勝ち誇り、彼の頬に迫った。少しだけ唇を尖らせてしっとりと汗ばむ片岡の左頬にキスをする。まるでセメントを塗られたかのように固まった片岡の前に飛ぶように立ち、目一杯の笑顔を浮かべて言った。 「また明日、この時間にここに来て。それじゃ。」 彼のリアクションをしっかりと見ることなく、小島は本殿の裏手から去った。彼にとって一夏の思い出、もし明日来なくとも唇の柔らかな傷を片岡に残した、それだけで満足だった。 さて、今日の夕飯は何にしよう。24時間後を頭の隅で思い描きながら、小島は自転車に跨った。
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