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 僕は思春期に入ってからお父さんがお母さん以外の女の人を何人も好きだということが分かった。だからお母さんは嫉妬して怒るんだということも分かった。そうしてお父さんとお母さんがいざこざを繰り返しながら僕が中学生になり高校生になり大学生になった時、お父さんは遂にタイムマシンを完成させた。それは転送タイプだった。で、早速、お父さんは僕とお母さんの前で動物実験をすることにした。その模様をお父さんの説明を基に解説する。  まずお父さんは転送台に実験用のモルモットを載せた。そしてタイムマシンを始動し、モードダイヤルを転送モードに切り替え、転送対象者ロックボタンを押してモルモットをカプセルの中に閉じ込め、環状抑制ビームで捉え、位相変換コイルの働きによってエネルギー態に近い量子にまで分解した。  その結果、転送パターン化したモルモットは、パターンバッファに蓄えられた後、研究所の外壁に設置してある転送ビームエミッタからお父さんが設定した過去の地まで放射された。  量子レベルのミクロの世界ではエネルギー波と粒子は同質の存在だから転送パターンは環状抑制ビームに乗って設定地まで運ばれて再物質化する。  従ってモルモットはお父さんが設定した過去の地で物質化して再生することになる。  お父さんは再生完了を知らせるランプが点灯したのを見てモードダイヤルを回収モードに切り替え、再生ボタンを押した。  すると、転送ビームエミッタから転送ビームが放出され、遠距離仮想焦点分子スキャナーの働きによってモルモットを捕捉し、位相変換コイルの働きによってエネルギー態に近い量子にまで分解した。それが転送ビームに乗って転送ビームエミッタを通ってパターンバッファに蓄えられた後、データが開いてカプセルの中に量子が充満して行き、ディジタル演算回路が作動して量子の状態ベクトルの線形結合、所謂、重ね合わせが始まり、モルモットが見る見るうちに出来上がって行った。  それを見て僕らが大いに喜んで歓声を上げたのは言うまでもない。続いて設定した地で再生されるかを確かめる為、お父さんが実験台になるべく転送台に乗った。そしてお父さんの助手であるお母さんがタイムマシンを操作し、実験は見事に成功した。 「おう!友恵!翔太!俺は確かに銀閣で東山文化を堪能する足利義政を見て来たぞ!嗚呼、詫び寂びの世界とはなんと幽遠なるものか!」  お父さんがその地に滞在したのはものの5分くらいだと思うけど、大風呂敷を広げたのでもなさそうだ。僕とお母さんはお父さんの話に興味深く耳を傾けるのであった。
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