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砂混じりの風が吹き荒れる大地、崩れ落ちた
古代の建造物。太陽の光はプラズマの乱雲に
遮られ、昼間にも関わらず皆既日食のように
薄暗い。
カムジン村は中央から遥か
離れた辺境に位置しており、交易ラインからも
大きく外れている。村の周囲に生い茂る森には
獰猛な野獣が住み着き、熟練の狩人でも不覚を
取ることがあると言われる。
上流には古代に作られたであろう大きな池
があり、蒸留された水のおかげか作物は毎年
潤っている。そのため自給自足が可能となり
他のコミューンとの付き合いは薄かった。
今現在、村人たちは気が立っている。
彼らは長の家に集まっていた。大きな決まり
ごとは村の長が中心となり、議論により決定
される。本日の議題は深刻だった。
「おい、いい加減何とかしてくれよ!」
年配の男性が訴えかける。目は泳ぎ
恐怖の色を隠すことなく皆に見せつける。
「落ち着いてください。アンドレさん」
年配の男性――アンドレをなだめるのは
黒い司祭平服を身に纏った男性だ。彼は
この村の教会を守る神父だった。
「何言ってんだよ神父さん!あんた言ったよな。
大聖堂に連絡するって……それなのに10日
経っても誰も来ねえじゃねぇか!」
アンドレは神父に唾を吐きかける勢いで
まくしたてる。周りの住人も「そうだそうだ」
と続いた。
「大聖堂には連絡を取りました。
向こうからテンプル騎士が派遣される
と聞いてます。もう少しの辛抱ですよ」
神父は自信を持って答えた。彼はこの村の
出身ではない。大聖堂から派遣
されこの地で布教活動を続けている。
漆黒の司祭平服は彼が信仰に身を捧げている
証拠だ。だが神父の仕事は布教であって
荒事ではない。
「もう10人だぞ!人が死んでいるんだ。隣人の
スライが森で身体を真っ二つにされていた。
次は俺の番かもしれねぇ!」
アンドレは混乱し目の前に置いてあった
木のコップをテーブルに叩きつける。
「トマス神父。あなたのいう事を信じたいが
今は早急に対策を練らねばならん――これ
以上村人を失うわけにはいかんのだ」
2人の言い合いを奥座で静観していた村長
が口を挟む。60歳ほどの壮年で髪の色から
黒が完全に抜けている。
「ですが長、テンプル騎士が来れば
このような怪異もすぐに解決できるはずです。
彼らは悪魔討伐のスペシャリストですから……」
トマス神父は長を説得しようとする。外部
の力だけは絶対に借りるわけにはいかない。
彼ら大聖堂の沽券にかかわる
からだ。
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