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長は両手を組んだまま思案する。神父の言葉
には妙な力があった。普通なら彼の魅力に負けて
言う事を聞くところだが、今回は別だ。
「残念だが神父、もう待ってられないのだ。
実は別の手を既に打っておる」
「長、それってまさか」
「そうだ、祓魔士を連れて
くることにした」
祓魔士という言葉に
村人全員が騒めく。村人の1人が長に噛み
ついた。
「ふざけるなよ長!祓魔士
なんてくそ野郎に何で依頼するんだよ!」
「そうだ!奴らが何をするかあんたも知ってる
だろう?金品を奪い女を犯す。ただの盗賊
と変わらねぇ」
もう1人が続く。祓魔士
の悪名はこんな辺境にまで届いていた。
長は何度も頷く。村人の反発は既に想定
されていたことだ。普通なら野盗まがいの
クズ連中などに村の命運は託さない。だが
中には本物が存在する。
「ジェフ爺さんが村を降りたのは知ってるな。
爺さんから連絡があった。1人見つけてきた
と……」
「1人?たった1人かよ!」
今度はアンドレが口を挟む。祓魔士
が単独で行動することは少ない。奴らの
ほとんどが徒党を組んで悪魔と戦う。
それゆえ報酬も高くなるし、付加価値を
求められることが多い。
「すでに爺さんが交渉しておる。報酬も破格の
安さだ。試してみる価値はあるだろう?」
長は静かな口調で答えた。彼らが不安がる
のも無理はない。だがこのご時世に単独で
行動する祓魔士がいる。
その事実に長は賭けてみることにした。
村人たちはザワザワとお互い議論を
繰り返す。長が勝手に話を進めていた
のをなかなか受け入れられない。トマス
神父は両手をテーブルについて長に向かう。
「長……もう一度考え直してくれませんか?」
神父は半ば泣きつくように言った。
祓魔士が来て解決する
ことは村にとっては救いになるが、神父
には破滅を意味する。
「神父、これはもう決まったことなのだ。
覆したいのなら、さっさとテンプル騎士
を呼んでくれ」
長の決意は固かった。神父の言う事が
もう戯言のようにしか思えなくなってきた。
神父が口を挟もうとするのを長は手を上げて
制する。神父はしぶしぶ席に着いた。
「明日には爺さんが連れてくる。もてなしの
準備をしてくれ」
「女たちは小屋に隠しておくか?」
アンドレが村の女性たちの心配をする。
報酬が破格と聞いて女の身体かもしれない
と思った。
「その心配はない……まあ会えば分かる」
長はニヤリと笑うと腕を組んだまま
目をつぶった。
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