6-2 扉一枚の距離

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 勢いで見舞いに付いて行くと言ったはいいものの、実際に砂音と会ったら、どんな言葉を掛けるべきなのか。実の所は、全く無計画だった。正直、どう伝えたらいいのか分からない。どうしたら、彼の心を過去の闇から救い出す事が出来るのか。そして、現在の彼の自罰的な行動を止める事が出来るのか。  分からない……けど、体当たりでぶつかっていくしかない。    朱華が神妙な顔をしていたからだろう。横で見ていた千真が、ふと声を掛けてきた。 「……大丈夫か?」  思い掛けない気遣いの言葉に、目を丸くして見詰めると、バツが悪かったのだろうか、スイと視線が逸らされる。そんな仕草に、やけに親近感を覚えた。――『千真は朱華ちゃんに似てる』と、砂音が言っていたのを思い出す。 「ああ、大丈夫だ」  何だか励まされて、力強く一つ頷きを返して見せると、千真の方も小さく首肯を寄越して来た。  ――大丈夫だ。何があっても、もう諦めないと決めたのだから。  砂音の住むマンションは、学校から然程遠くない場所にあった。朱華の住むボロアパートとは違い、比較的新しめでなかなかに洗練されたデザインをしている。――家賃、それなりにするんじゃないか? などと朱華が余計な心配をする一方、千真は迷いのない足取りでずんずんと先に進んでいく。通い慣れているのだろう。  遅れを取らないように彼の後に続いて朱華も勇み足になった。
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