第二ひかり都市

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第二ひかり都市

 凍てつく横風が私の体を突き刺す。  マンションの屋上からは、雪で降り積もる世界がよく見えた。  ここから飛び降りたら、確実に死ねるであろう。  世界が反転する。スローモーション。  私の世界が近付いてくる。 …………………………………………あ。  体が地面へと叩きつけられる瞬間、意識がブラックアウトした。  目を覚ますと、マンションの真下でうずくまっていた。  200Mほどの高さから飛び降りたというのに、私は怪我の一つもする事なく、意識はしっかりとあった。まさか雪が緩衝材の代わりになったわけではないだろう。夢でも見ているのだろうか。  ゆっくりと立ち上がり、改めて街中を見回してみると少しの差異に気付く。私の知っている街とは何処か違うのだ。信号の位置。店の場所。見知らぬ建物。まるで過去か未来に行ってしまったようだ。 「やっと目が覚めたかい?」  後ろから声をかけられて、振り向く。そこには少年がいた。 「理解できていない顔をしてるね。そりゃそうか。何でも聞いてよ」「あなたは?」「僕はこの世界の支配人さ」「この世界の?」「そう。第二ひかり都市」「なんなの?」「都市の名前」「じゃなくて、この場所は」「もう一度やり直す為の場所さ」「何を?」「君は聞いてばかりだな」「何でも聞いてくれって言ったじゃない」「人生を」「人生をやり直す?」「うん。夢や希望を失った人が、もう一度人生をやり直す場所だ」「だから此処に迷い込んだのね。その、えぇと」「第二ひかり都市。道標を失った人達の、第二のひかりとなる夢の世界だ」  少年は振り向き、私に眩しい笑顔を向ける。夢の世界。でも、 「あの人達が幸せそうには見えないんだけど」「希望に溢れている事が、幸せに繋がるとは限らないんだよ」「もし此処に残ったらどうなるの?」「生まれ変わって、もう一度人生をやり直せるんだ」  私はもう、どんな未来になろうが人生をやり直したくなかった。 「まぁ、お姉さんが望むのなら元の世界に帰してあげてもいい」 「じゃあ戻して。私はちゃんと死にたいの」 「わかったよ」と、少年が指を鳴らす。視界が歪んでいく。  薄れゆく意識の中、少年の声が微かに聞こえた。 「でも、お姉さんさ、現実に戻っても――」  世界が反転する。スローモーション。  私の世界が近付いてくる。 …………………………………………あ。  体が地面へと叩きつけられる瞬間、意識がブラックアウトした。
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