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君は遠くへ行ってしまう、僕の手が届かない場所へと。
幼い頃恥ずかしがり屋で人見知りだった君は、いつも僕の後ろに隠れてばかりだった。君の知らない人が来ると、洋服の裾を小さな手で懸命に握って僕の背中からこっそりとその人を見上げるんだ。その人がこんにちはと話しかけても、僕の背中に引っ込んで隠れてしまう。
そんな君が可愛くて、愛おしくて、僕はずっとこの子を守っていこうと思ったんだ。
君がかわいい女の子から綺麗な女性へと成長して、初対面の人にも怖がらなくなり僕に生意気な口まで利くようになった。その姿が、成長が、嬉しい反面なんだか寂しくなってしまって、幼い頃は恥ずかしがり屋で可愛かったと言うと、今だって可愛いでしょうといたずらっぽく笑うようになった。
そんな君は、遠くへと行く。
僕が手を伸ばしても、彼女はもう平気だよと笑う。
立ち上がるために支えなくても、僕の後ろに隠れなくても、高いところの物を取るときに体を持ち上げなくても、人込みで迷子にならないように手をしっかり繋がなくても、口元にスプーンを持って行かなくても、もう君は自分で出来てしまう。
そして今日、僕の手を離れて嫁いで行く。
会える距離、手を伸ばせば届く距離、でも支えるのはもう僕の特権ではなくなって、幸せそうに笑う娘の隣にいる人になる。
ああ、さみしいな、こんなふうに思うなんて思いもしなかった。娘の結婚式に泣くなんて、思いもしなかった。
ぼろぼろと泣き出した僕を見て、妻は微笑み、娘も涙目で微笑んだ。
結婚、おめでとう。
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