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第2話 今日も開店
8時からの開店となるcafe「R」。
さっそく、その扉に手がかかった。
「莉子ちゃん、おはよ。いつものちょうだい」
ガランとドアベルを鳴らし、分厚い木のドアを押して入ってきたのは常連の靖也だ。
靖也はドアに錆びついた「R」の文字を見て思う。
ここに通うのも何十年だろうと。
彼女の祖父から始まったこのカフェは、老舗カフェといってもいい。古ぼけた洋館なのが、特に洒落ている。
「おはようございます、靖さん。いつもの、準備しますね」
莉子は白シャツの襟をたて直した。
淡い茶色の髪は肩までで、鼻筋の通った横顔が彼女の母親の姿によく重なる。
くりっとした目はマスターに似ている。三日月になる笑い方がそっくりだ。
莉子のことを子供の頃から知っている分、こうして大人な瞬間を見るたびに、少し寂しく、だけれども、もういない彼女の両親に心の中で会話をしてしまう。
(莉子ちゃん、今日も元気だよ。コーヒーを入れるのも、本当に様になって……すごく美味しいコーヒーなんだよ。2人にも飲ませてあげたいよ……)
靖也はいつもの席に腰をおろし、昨日の続きから本を読み始める。
コポコポとお湯の音を聞きながら、今日も1日が始まる。
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