老舗カフェ「Ｒ」〜モノクロの料理が色づくまで〜

第３話 このカフェのこと

　この地区は日本有数の高層ビル街でもある。
　さらに、ここ１、２年でエルフ企業のビルも増えてきた。
　そのビル街と住宅街を区切るように、隣にイチョウ並木のある公園が広がる。
　公園は広く、遊具はもちろん、いくつかの遊歩道や噴水、ドッグランまでも併設していて、朝から夜まで、人が絶えない人気の公園だ。

　その大きな公園の端に、老舗カフェ「Ｒ」はある。
　いや、住宅街の先頭にカフェがあるだけなのだが、まるで小さな森に佇む洋館のように見えるのだ。
　莉子は、今は亡き祖父に恥じぬよう、両親に負けぬよう、ここで１人、踏ん張ってきた。

「靖さん、今日はコーヒー、濃いめにいれましょうか？」
「そうだね。ムワッとぼやっとした日は、シャキッとしたほうがいいかもな」
「ねぇ、その本、どこまで進みました？」
「怪しい犯人がいっぱいで、ぜんぜんヒントもないんだよね。俺は主人公が犯人だと睨んでる」
「今回は当たるといいですねぇ」

　莉子は話をしながらも、手際よくコーヒーをいれていく。
　再びドアベルが鳴った。
　最近通ってくれているエルフの女性だ。
　艶やかなブロンドは綺麗に結い上げられ、長い尖った耳の先にエキゾチックなピアスが下がる。
　タイトの黒いパンツスーツをいつも着こなし、赤いハイヒールが彼女の強さのようで、莉子はいつも見惚れてしまう。

　莉子はブラウンのグラスにレモン水を注ぎ、彼女の元へと運んだ。

「おはようございます」
「オハヨウゴザイマス。コレ、クダサイ」

　エルフ側は魔力でこの世界の言葉を翻訳できる器具があるというが、彼女は日本語を片言ながら話してくれる。
　特にこちらの世界にくるようなエルフだ。何かしらの特技や技術があるのだろう。
　むしろ、そういったものがないとこちらには来られない。日本側ももちろんそうだ。
　遊びに来たり、行けるのは、金持ちだけだ。

「ご注文はコーヒーで……」
「コノ、モーニングセットモ、キョウハイタダキタイ」
「かしこまりました。今、ご準備しますね」

　莉子が微笑むと、エルフの女性もにっこりと笑い返してくれる。
　新しい客層となったエルフの方々と、意思疎通をしっかりとりたいと、莉子は常々思っている。

　だが、莉子には、もう、それができない理由がある。