第37話 雑貨屋とテーラー

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第37話 雑貨屋とテーラー

 トゥーマの案内で裏道に入ったところにあったのは、こじんまりとした小さなお店だ。  だが店構えはまるで、外国の雑貨屋のようにオシャレで、店内のランプがとても可愛らしく揺れている。 「ここ! ここのカップなら、なんでも大丈夫じゃね?」  トゥーマの声に、みんながうなずくが、莉子だけはうなずけない。 「いいから入ってみよう、リコ。リコが気にいるのがあるといいな」  イウォールのエスコートで店内に踏み込んだが、ただの雑貨屋ではなかった。  店内が3つの区域に分かれている。  一番奥がテーラー、真ん中が雑貨屋、手前がカフェだ。  店内もどこか莉子のカフェに通じるような洋館の雰囲気がありながら、ところどころにドライフラワーや原石が並び、異国の雰囲気が漂う。 「いらっしゃい」  中央のカウンターで腰をかける人物が眠そうに顔を上げた。 「ん? 4人揃って。イウォールのとなりは女か?」  ぶっきらぼうに喋るが、莉子はその姿に驚いていた。  猫の耳が生え、尻尾があるからだ。 「い、イウォールさん……この人……」 「お、人間のくせに見えるのか。珍しいな。ジェイ、来てみろよ」  ミシン台から顔を上げた店員が、メガネをかけ直しながら歩いてくる。 「あー、人間のクセに魔力があるんだね。めんどくさいね、この子」  140㎝くらいの男の子とも女の子ともいえない2人は、莉子の顔をまじまじと見上げている。  ただただそっくりで、メガネがなければ見分けがつかないほどだ。  莉子はどうリアクションしていいのかわからず固まっていると、イウォールが意気揚々と紹介しだす。 「ジェイ、ミー、彼女はリコだ。私の伴りょ……」  莉子の拳がイウォールの横っ腹に刺さった。  情けなく床に崩れたイウォールをそのままに、ジェイとミーは小さな手を莉子へとさしだす。 「よろしくね。ぼくはジェイ。ここの店長で、服屋」 「よろしくな。おれはミー。ここの副店長で、雑貨とコーヒー出してる」  握手をかわした莉子だが、手の感触は人間だ。 「リコさん、ジェイとミーの姿が見えてるんですね!」  アキラは感激しているが、莉子にはついていけない。 「ジェイとミーは、異世界の種族でパタといって、猫耳と尻尾が特徴なんです。魔力で見えないようにしてるんですが、リコさんだと見えちゃうんだぁ……すごいなぁ」 「でも、こんな子どもがお店って」 「「子どもっていうな!」」  ジェイとミーの声がそろう。 「たしかにぼくらは見た目が小さいけど、これでも211歳だ。トゥーマやアキラよりもずっと年上なんだぞ!」 「本当に人間は見た目で判断するから嫌いだ! ここの店だって、もう30年になる!」  申し訳ないが、見た目は小学生ぐらいに見えなくもない。  莉子はこの責められ方は理不尽だと思いながらも、小さく頭を下げる。 「……で、何を買いに来たの?」  ジェイがため息をつきつついうと、イウォールが立ち上がった。 「私はテーラーに用が。他はコーヒーカップとソーサーだ」 「じゃ、カップみたいなら、おれについてきな」 「じゃ、イウォールはぼくが」  大きな木のテーブルに広げられているのは、たくさんのカップとカップソーサーだ。  それこそ北欧系のデザインから、アジアンテイストまで幅広い。 「ここの食器類は全部、おれが焼いてる」 「へぇ。このデザインもですか?」 「そうだ。シンプルなのがいいか? シンプルなのなら、下にある」  床がぱっかりと開いた。  狭いが階段があり、そこをトントンとミーが降りていく。  ミーにとってはちょうどいいのだが、莉子でギリギリ、トゥーマたちだとかなり危ない。 「僕、ここの階段苦手」 「オレも……。エルフには狭いよな」 「俺は頭が当たる」 「でかい自慢してんじゃねぇよ、ケレヴ」  エルフたちの声が気になるのか、ミーが振り返った。 「ここはおれの店だ。文句あるなら出てけよ」  それからは大人しくカップ選びに集中していくが、話を聞くと莉子は言葉に詰まる。 「それって、結局、黒ってことじゃ……?」 「いや、黒よりのグレーだろ」  というのも、異世界の土をこちらに運び、焼いて、カップにしているというのだ。だからどんな食器でもここのものを使えば、料理に多少は色がつくという。 「このアンティークの食器は?」 「これは向こうで造ってこっちへ持ってきたら1日でアンティークになるな」  どうも、ここに異世界の食器を持ってくるとと言う。 「魔力ってのは生命力をすんげぇ活性化したようなもんだ。リコっていったよな? 気をつけろよ。すぐ、ババアになるぞ。だが、ここのものは向こうのものだから、料理は綺麗な見栄えになる。安心して使えばいい」  どうも魔力にはなにかすごい力があるようだ。  さらにいえば、向こうの世界にあるものは、とにかく魔力で溢れているということなのだろう。 『気を付けろよ。すぐ、ババアになるぞ』  この言葉が気になりはしたが、ただの会話のながれだったため深くは聞けないまま、カップ選びをおえた。  改めて店内に戻ってくると、イウォールがひとり、カフェスペースで紅茶をすすっている。 「リコ、いいカップは見つかったかな?」 「はい。素敵なのが見つかりましたよ」 「では、私たちが生活する用の食器をえら」 「選びません」  食い気味で莉子は返答するが、イウォールはすでに見繕っているようで、莉子にあれやこれやと勧めてくる。 「よし、リコ、ここの食器買ったし、イウォールも済んだだろ?」 「ああ、大丈夫だ」  気づけば、トゥーマが全て支払いを済ませていたようだ。莉子は請求書を出してもらおうと考えていたのに、グダグダである。 「すすすすみません、トゥーマさん」 「いいって。ラハを潰すのに、これくらい安いって」 「だそうなので、ここはトゥーマに任せてあげてください」 「アキラさんまで……」 「よぉーし、そしたら夜はビーフシチュー! はやく帰ろうぜ、ケレヴ」 「へいへい」  店の外へ向かう一向に、ジェイとミーが走り寄る。 「リコ、ラハとなにかあるの?」  そう聞いてきたのはジェイだ。 「はい。私の店に立退きの話を……」 「「あいつら……」」  一度カウンターに戻った2人だが、何やら相談をして1つの小瓶を選んできた。 「リコ、ぼくとミーから、これをあげるね」 「ラハに間違いなく利くものだから、大事にしろよ」  赤い砂が入っている。  振ってみるけれど、見た感じはただの砂だ。 「リコ、それはいつでもどこでも出せるようにしまっておくといい」  イウォールにそう言われたため、莉子はそっとポケットにしまいこんだ。  小さな大人に見送られ、再び痛い視線のなか車へと戻ると、古ぼけた莉子のカフェへと帰っていく。
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