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第38話 カフェへ戻り、夕食準備へ……
同じ座席ポジションで帰宅となったわけだが、莉子の手の中には、ジェイとミーから渡された小瓶がある。
赤い砂は上下にサラサラと動くが、動かすたびに光るのが綺麗で見惚れてしまう。
「リコ、気に入ったのか?」
イウォールも同じように見つめてくる。
莉子はイウォールに見せながら、ふふふと笑う。
「これ、きっと、普通の砂じゃないんですね。砂がこんなにキラキラしませんから。あ、夜のビーフシチューは、ワインもどうですか? これは私がご馳走します」
ワイン、と告げただけなのに、4人の耳がピクリと震えたのがわかる。
これは、地雷を踏んだのではと莉子は思う。
ワイン通にはなりきれていない莉子なため、今あるワインは本当に自分の料理に似合うワインしかない───
「あ、ちょ、あの、すごいお高いワインはないんで!!!!」
必死の弁明だが通じるだろうか。
『またまた謙遜して』なんて思われたらたまったものじゃない。
「ちなみに、どんなワイン、かな……?」
莉子はイウォールの探りを入れる雰囲気の言葉につまる。
「……うちのビーフシチューに合うものなので……ローヌのワインなんですけど……よかったら、ヌフとか……」
どこまで通じるか莉子も探りをいれる。
ローヌというのはフランスワインの地域を指す。
よく聞くのは、ブルゴーニュ地方にあるピノ・ノワールという品種かもしれない。
この南にあるローヌ地方は、シラーやグルナッシュといった家庭的な味が特徴の葡萄だ。
特にシャトー・ヌフ・ドゥパプが有名だろう。13種類の葡萄から選び、ブレンドができるワインもここの地域だけのものだ。ブレンドで味が変わるだけあって、造り手でかなり味も変わってくる。
「ヌフ? そんなワインがあるのか。楽しみにしてるよ、リコ」
優しく微笑んだイウォールに、莉子は内心安心する。
ワインが好きな、それほど知識のないエルフだ、ということだ。
だが、ただただ自分と同じぐらいの知識量でありますように……と莉子は願ってしまう。
ウンチクよりも、美味しく飲みたいのが、莉子の気持ちだ。
何年ものがあったかしら? と莉子が考えているうちに、カフェへと車は到着した。
長い1日だったからこそ、最後まで楽しく終わりたい。
莉子はそう思うからこそ、いつもの笑顔を作る。
「今日は色々と楽しませていただけたので、夕食は私の料理で楽しんでいただけたら」
その声にウキウキなのは、トゥーマとアキラだ。
「ワインとビーフシチュー! やったぞ、アキラ」
「やっぱりいいよね、ワイン」
あまりの喜びように莉子が驚いていると、ケレヴがつけたした。
「向こうの酒っていったら葡萄酒なんだよ。こっちのワインとかなり似てるんだ。だから懐かしいっていうか、飲み慣れてるっていうか。だから、そんな高いワインとかはいいんだ。水みたいに飲めたらいいんだ、俺たちは」
向こうのワインも飲んでみたい。
莉子は思うが、この願いはきっと一生かかっても叶わないだろう。
異世界の食材はこちらへの持ち込みはかなり制限されると聞く。
現地に行くしか方法がないのだ。
現地に行けるのはごくごく限られた人たちだけだから。
莉子はもっと向こうの話を聞きたくなる。
それならやっぱりワインがいい。
人を饒舌にしてくれるのが、ワインのいいところだから。
「さ、準備しますので、席に着いていてください」
カウンターの椅子にひっかけてあったエプロンを腰に巻き付け、莉子が動き出した。
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