第40話 楽しい夕食

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第40話 楽しい夕食

「あまりもので申し訳ないですが……」  料理を運んでカウンターをでると、5人が座れるようにテーブルが組まれている。 「ありがとうございます」  莉子がビーフシチューを置いていくと、イウォールがサラダや取り皿を運んでくる。 「リコ、カトラリーってどこ?」  トゥーマの声に、莉子は「カウンターの裏です」と伝えると、トゥーマとアキラがてきぱきとカトラリーを置いていく。  カウンターの奥ではケレヴがグラスを磨いている。  その姿すら様になるのが、ちょっと憎い。 「リコ、今日のワインは? 一応、ボルドー系のグラス磨いたが」 「さすがですね。ローヌワインも考えたんですが、せっかく皆さんと一緒ですし、アメリカのジンファンデル主体のブレンドワインにしましょう。アメリカはガッツン度数も高いですが、旨味もすごいので」  今日の夕食は、メインがビーフシチュー、サラダは生ハム添えのグリーンサラダ、パンはガーリックトーストされ、チーズはオレンジ色が映えるミモレットに、ハードチーズのコンテ、クラッカーにはクリームチーズが塗られている。  さらに大皿にはクリームコロッケと皮付きのポテトフライがある。 「料理が足りなくなれば、何か作ります。食材は火曜日に入るので、食べ切ってしまっても全然構いませんから」  そう言った莉子の肩をそっと押すのはイウォールだ。  いつの間にか莉子の場所は決まっており、椅子が引かれ、そこに座れ、ということだと理解するが、並べたグラスには、なぜか、なぜか! ケレヴがワインを注いでいる。 「……ちょ、ちょっと待ってください! ここは私のお店ですし、こういうのは、店主がするもので……」 「あ? 女に酒をつがれるのは俺の性分じゃねぇ。やっぱり、飲んで飲ませてなんぼよ」  目の奥が光る。  深い意味がありそうだが、莉子はそれに触れないことにした。 「リコ、たまにはいいじゃん。みんなで食事しよーぜ! なんか、こうやってテーブル囲むと、いいな、いいな!」  ひとりテーブルではしゃぐのはトゥーマだ。  それをにこにことアキラは見つめている。 「いいよね。家族みたいで。僕も久しぶりだなぁ。こうやってテーブル囲むのなんてぐらいかも」  アキラの言葉に、莉子も思う。  こうやってテーブルに座ってゆっくり食事をするのはいつぶりだろうと。  誰かに何かをもてなされたのも、いつぶりだろうと……───  でも、20年ぶり……? 「さ、リコ、新しい仲間ができたお祝いをしよう。そして、私たちの婚礼の予行練習をしようじゃな」 「はい、カンパーイ!」  イウォールの声を遮っての莉子の乾杯は、店内に大きく響く。  だけど、みんなとのご飯が嬉しくて、ちょっと涙が溢れてたのは内緒だ。
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