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第41話 ワインとこれからのこと
『アメリカワインは、ポップなワインだ』
そんなコメントを初心者の本ではよく見るが、実際飲むと、少し違う。
確かに果実味が強く、甘みとアルコールを強烈に感じるワインも多い。
だが、少し背伸びをすると、少し顔つきが変わったワインに出会える。
特にカリフォルニア州のナパ・バレーのワインは秀逸なものが多い。
有名な高級ワインである『オーパス・ワン』も、このナパ・バレーのワインだ。
ただ、平均的にワインは13%前後のアルコール度数なのだが、アメリカワインはその果実味の強さからか、15%を超えるものもある。
飲み口は軽く、旨味もあり、スルスルと飲めていいのだが、気づくと……
「リコぉぉぉ……私はリコに会えて幸せなんダァァ……」
こうなる。
気づけばベロベロに酔っている、なんてことになりえるのが、アメリカワインの特徴の1つといってもいいかもしれない。
「イウォールさんって酔ったら泣き上戸なんですか?」
「そうだな。だが、それを見るのは俺の付き合いでも5回目だな」
「それは、レアなんですか……?」
「数百年の付き合いでの、5回だぞ? 100年足らずの人間の5回といっしょにしないでくれよ」
気づけば赤ワインの3本目が終わり、今は白ワインが3本目となっている。
作るのもなんだからと、スナック菓子なんかをおつまみに飲んでいるのだが、すでに潰れているのはトゥーマだ。彼は早かった。
日頃の疲れもあったのかもしれないが、白ワインにさしかかる頃には目が閉じはじめ、白ワインをグラス1杯飲み干して、テーブルに突っ伏してしまった。
そして、次はイウォールだ。
莉子はイウォールの背中をトントンと叩いてやる。
すると、莉子の肩にすがっていたイウォールが、テーブルへと突っ伏し、寝息を立てていく。
「……静かになりましたね……。お開きでしょうかね」
莉子の声に、アキラは笑う。
「まだ白、残ってますから、飲んじゃいましょ」
一番強いのはアキラのようだ。
目がクリアだ。意識もはっきりしているのがわかる。
一方のケレヴは起きてはいるが、顔が赤く目がトロンとしている。かなり酔っているのがわかる。
「リコさん、お強いんですね」
アキラの声に莉子は首を傾げて見せた。
莉子は自分のペースを崩さないように飲んでいたし、水もしっかり飲んでいたのでこの程度なのだが、さっきお手洗いに立ったとき、少し、膝にきていた。
「あの、料理作っているときにイウォールさんから皆さんがこの店を手伝うって聞いたんですが、本当ですか?」
「ああ。俺はさすがに仕事があるから夜しか手伝えないが、アキラとトゥーマが月水金で、イウォールは日頃の公休消化で今月いっぱい入るぞ。こきつかっていいぞぉ。あいつ、料理得意だしな」
「あのー、いつ、そんな話してました……?」
「女将さんとおしゃべりしてるときでしたかね。すみません、リコさん」
「え、いや、アキラさん、謝らないで……」
莉子のわかるところで進んでいた事実に莉子は軽い目眩がする。
だが、自分がエルフ語がわかるだけでは、きっとダメなんだと莉子は思う。
今日だけでも、エルフという立場がどういうものなのかを目の当たりにした。
華やかで美しい反面、人間の世界ではより影が濃くなる気がする。
「……少しでもエルフの方が安らげるカフェにしたいな……」
ついもれてしまった言葉に莉子は顔を上げるが、ケレヴとアキラは優しく笑っている。
「たぶん、お前のそういうところが、イウォールには透けて見えるんだろうな」
「よくわかりません」
白ワインをぐっと飲み干した莉子のグラスにすかさずアキラがワインを注ぎ足した。
「あ、さっき、アキラさん、20年ぶりとか、そんなこと言ってませんでした? あ、答えたくなかったらいいんで」
「いいえ。そのままのことですよ。僕の年齢は今年で47になります」
……ん?
莉子の顔が固まった。
アキラを見つめて、ケレヴを見つめて、またアキラを見つめる。
となりで寝そべるトゥーマを見つめて、またアキラを見る。
「トゥーマは僕より少し年上で、今年で89歳だったっけな? そのぐらいです」
……んん??
「おい、リコ、大丈夫か?」
「……アキラさん、見た目、20代、むしろ前半ぐらいに見えるじゃないですか……私より年上だなんて……! 私、すごく失礼なことをしてませんか? してますよね? え? どうしたらいいんですか?」
ひとりおろつく莉子を2人は笑うが、首を横に振るだけだ。
「エルフは年齢、気にしねぇから、問題ねぇよ」
「僕も慣れてます。気にしないでください」
エルフの不思議にまた触れた莉子だった。
───が。
「アキラさんとイウォールさん、どうしますか……? ケレヴさん、お酒飲んだから車の運転無理だし。タクシー……?」
今から前途多難であることを、起きている3人は悟ったのだった。
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