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第42話 エルフと過ごす朝
目が覚めたら、なんと、目の前にイウォールが!!!
……なんてことはなく。
彼らが家に帰る方法はたくさんあったのだが、酔っ払いが2メートルの人間を抱えてマンションに入るのは骨が折れる(物理的にも)。
ということで、莉子は客間を解放するとこにした。
莉子が過ごす部屋と、客間は分かれている。
それは過去二世帯住宅だったことが大きな理由だ。
客間は、過去に祖父母が暮らしていた場所でもあり、お風呂も簡単なキッチンも備えてある。
備え付けのシングルベッドが2つ、さらにソファベッド、折り畳みの簡易ベッドを駆使して、4人は宿泊となった。
莉子は少し早めに起きると、朝のルーチンをこなし、朝食の準備にとりかかる。
「野菜たくさんのスープとパンでいいかなぁ……しこたま飲んでたからなぁ……」
眠い目を擦りつつ、スープの準備をしていると、居住スペースから、カフェへ降りる階段を歩く音がする。
「懐かしいな」
昔はよく聞こえた音だ。
踏み締め方で誰の足音かわかったものだが、今日はエルフの足音なので、それが誰かはわからない。
ただ慎重に、丁寧に下りる感じから、イウォールではないかと、莉子は思う。
カフェの厨房にするりと入ってきたのは、
「リコ、おはよう。早起きなんだな」
イウォールだ。
「おはようございます、イウォールさん。調子はどうですか?」
「問題ない。私も手伝おう」
「いいですよ。今、コーヒーいれますね」
「だめだ、リコ。2人で用意するのがいい。新婚みたいでいいと思うんだ」
いつもなら言い切る前に殴られるか、なにかのアクション(物理)があるのだが、今日はそれはなかった。
莉子は黙ったまま、それでもニコニコとコーヒーを入れていく。
「はい、イウォールさん。……イウォールさんは、よくそんなにペラペラと妄想を垂れ流せますね」
「妄想は口に出すと、本当になるというだろう。私は本当にしたいからな」
「イウォールさんが思う人じゃないです、あたしは」
莉子から手渡されたコーヒーを受けとりながらも、イウォールは彼女の手をそっと掴む。
「それならば、リコの思う人になればいい。私はリコの全てが好きだ」
真剣な目の奥に、優しさがにじむ。
莉子はその目を見つめながら、怪しい壺とか買わされないだろうかと心配になる。
だが、思う人になればいい。だなんて、言ってくれる人が今までいただろうか。
莉子は頭のなかでその言葉を反芻する。
「思う人になればいいか……」
イウォールはシンクによりかかりながら、長い髪を耳にかけ、美味しそうにコーヒーを啜っている。
見慣れない現実のはずなのに、こういう現実もいいなと、莉子はちょっと思ってしまった。
「コーヒー飲み終わったら、手伝ってもらってもいいですか?」
莉子の申し出に、イウォールは微笑みながら頷いた。
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