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第45話 ランチタイムの準備
イウォール主導により、テーブルにクロスをかけてたり、テーブルの位置を変えてみたりと、午前中いっぱい使っての店の模様替えは順調に進んでいる。
その間、ジェイとミーは動きようがないカウンターを陣取り、ミルクティーを飲みつつ、市販のクッキーを頬張り、のんびり眺めていた。
「リコ、もう1杯ミルクティーが欲しい。ここの茶葉、美味いな、ジェイ」
「ぼくもそう思う。爽やかな香りだよね、ミー」
「お2人は仲良しですね」
莉子は3杯目になるミルクティーを作り、ジェイとミーに振る舞っていく。
「家族は、おれとミーしかいないからな」
「そうだね、ジェイ」
2人の表情は変わらなかったが、その言葉には重みがある。
莉子もふと思う。
自分に兄でも妹でもいれば、また違ったのだろうな、と。
「リコ! ここは、どうだろう? クロスとクロスなしのテーブルにしたんだが」
大きめのイウォールの声に莉子は手をあげた。
今からそこへ行く、という意味だ。
「ジェイさんとミーさん、あまりお菓子食べすぎないでくださいね。ランチ、用意しますから」
莉子の言葉に2人は一度顔を見合わせると、そっくりな顔を莉子へ近づけた。勢いがよかったからから、猫耳がピコッと跳ねる。
「「シチューが食べたい!」」
その2人の申し出に、莉子は笑顔でうなずく。
ジェイとミーは相変わらず表情には出さずにミルクティーを飲んでいるが、ふかふかの尻尾が楽しそうに揺れだした。
改めて店内を見渡すために、莉子とエルフの4人は、カウンターに並んだ。
「やっぱり、男手があると模様替えもあっという間ですね〜」
他人事のようにこぼす莉子だが、腰を抑えているのはケレヴだ。
「なんであのテーブル、あんなに重いんだよ! 古いくせにっ」
「古いから、重いんです。ね、リコさん?」
アキラはさも当たり前のように言うからか、ケレヴにこづかれる。
その横に仁王立ちをするのはトゥーマだ。
「莉子が回せる分のテーブルにしたから、動線がいい感じになったな!」
「そうだな。広々とした、いいカフェになったと、私も思う」
イウォールがうなずいたとき、ジェイが大きな鞄を差し出した。
「せっかくだから、みんな着替えてみたらどうだ?」
ジェイの身長ほどある鞄には、みっちりと服が詰め込まれている。
シャツにベスト、パンツ……このカフェで働くためのユニホームのようだ。
「リコの分も、もちろんある。安心して欲しい。スリーサイズはしっかり測ってあるから、問題な」
「イウォールさん、今なんて……?」
イウォールの首をしめあげる莉子の腕をとめながら、アキラも叫ぶ。
「マスター・イウォール、セクハラの域を超えていますっ!」
「だ、抱きしめた、どぎ……に……ぐるじ……」
「リコさん、腕、緩めて! 緩めてっ!」
ケレヴにひょいっと抱き上げられた莉子は暴れるものの、簡単にイウォールから離される。
一方のイウォールは、弱りながらも、莉子へ親指を立てた。
「リコ、素晴らしい首締めだ……これでこそ、我がつ……」
イウォールが床に倒れたのを莉子は確認し、ジェイとミーに向き直った。
「今から、チキンシチュー作ってきますね。お昼の準備をしましょうか」
その声を機に、それぞれに動き出す。
もちろん、イウォールはそのままだ。
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