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第46話 シチューの準備と食事と
莉子が厨房へとむかっていくと、なぜか、ジェイとミーもついてくる。
「カウンターで待ってていいですよ？」
「どうやって作るのか、見たいんだ、ぼくとミーは」
ジェイが莉子へこたえると、ミーはぶんぶんと頭と尻尾を振っている。
「カフェで出してみたいんだっ。缶のホワイトソースだとなんか味気ないし、美味しく作りたいんだ」
「わかりました。では、あまりガスの近くに寄らないでくださいね」
いいながら、まな板や食材を用意していくが、ギリギリ調理台に視線が届いていない……。
「そんなに小柄でしたっけ」
「体調によって大きさが変わるんだ、ぼくら。今日は小さめだね」
丸い座面のついた軽いパイプ椅子をわたし、莉子が移動するたびに、ジェイとミーも移動しながら見ることに……。
「そんなにキノコ入れるのか！？」
「エルフはよく食べるっていうからねぇ。マッシュルームとしめじは出汁がでて、美味しいんですよ？」
「ぼくはにんじん、きらいだよ」
「いろどりだから、いろどり……」
「おれ、じゃがいもいっぱいがいい」
「ぼくは、えび！」
「そんなに具材は入れれません！」
即席のホワイトシチューのため、薄切り玉ねぎをバターで炒め、そこに小麦粉をふるいいれ、牛乳で伸ばしてホワイトソースにしていく。
火のとおりづらそうなものは電子レンジで火を通し、一つの鍋にまとめるとぐつぐつと煮込んでいく。
「味付けはコンソメとか、ブイヨンとか……今回は鶏肉も入れたから、そこからのも出汁がでて美味しいと思います」
３人でワイワイと作っている間に、他エルフ３名はテーブル席をつくり、さらにシチューといっしょに食べるパンの買い出しへ行かせてある。
朝と同じ寸胴いっぱいのホワイトシチューをテーブルへと持ってきたとき、ちょうどトゥーマとアキラも帰ってきたところだった。
「リコ、バタールでよかった？」
トゥーマの問いに、莉子は笑う。
「バゲットは硬いので、私はバタールの方が好きなんです」
「あぁ、よかった。トゥーマと僕、悩んじゃって。あ、お店のお姉さんがアップルパイ、一枚、サービスだって」
「じゃ、それは食後のデザートにしましょう」
顔以上に大きいアップルパイを受け取りながらも、一度もサービスされたことがない莉子は、エルフの美貌がちょっぴりうらやましくなる。
「ミーさんが持ってきてくれた食器を使って食べてみましょうか」
そういいながらシチューをよそう姿に、ジェイとミーは楽しそうに眺めている。２人の前にスープ皿を差し出すと、スプーンを握り、目を輝かしている。
イウォールはまだへばっているのでそのままにし、みんなに料理が行き渡ったところで、ジェイが手を組んだ。
「月の女神、新たな恵みに感謝を……」
「感謝を……」
ジェイとミーは小さくつぶやくと、大きくスプーンを差し込んだ。
ケレヴはいつの間に用意したのか白ワインを飲み始めている。
ワインはアルザス地方の白ワインだ。
すっきりとした飲み口で、たしかにシチューと合うかもしれない。
開けられたのならせっかくなのでと、莉子も一杯ワインをいただく。
床を這いながら席についたイウォールにもシチューを差し出したとき、ジェイとミーの体が浮いた。
これは興奮、なんだろうか。
耳と尻尾の毛が、ふわりと逆立っている。
「「ママと同じ味だ……！」」
そう言いながら食べ出したジェイとミーの目が薄らと涙がにじむ。
彼らの思い出の味になれたのならと、莉子はほっとしながら一口頬張った。
また作ってあげたいな、と、ガツガツ食べる２人を横目で見たとき、イウォールが喋りだした。
「ケレヴ、今日から私はここに住むので、荷物の移動を手伝って欲しい」
ぎゅるんと振り向いた莉子の目はつり上がっている。
イウォールは美しい微笑みを浮かべながら、まぁまぁと手でなだめて見せるが、莉子には全くきかない。
「ちょっと、どういうことです！？」
「たった一ヶ月もいないし、そちらの客間を使わせていだだきたい。問題はないだろ？ 朝の仕込みからしっかり手伝いたいしな。ちゃんと清掃してお返しする。それに魔力の定着をさせなきゃいけない。それは私にしかできないからな」
「だからって！」
もう一度腕を伸ばすが、それはケレヴによって止められた。
「リコ、これはマジな話。魔力って、時間が立つとすぐ薄れるんだ。ミーの食器は多少魔力が宿ってるが、それだって長く保たない。それを定着させることができるのは、たぶん、この地球って世界で、イウォールぐらいじゃないか」
「あとは、エリシャぐらいか……」
トゥーマがぼそりと言った名前だが、ケレヴの表情が険しくなる。
この『エリシャ』が何者なのか知るのは、約一週間後のこと。
まさか、店内であれほど激しい争いが起こるとは、誰も知る由もなかった───
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