82人が本棚に入れています
本棚に追加
/85ページ
第51話 開戦!
水曜日となり、いつもどおりに莉子は朝を始めた。
それしかない。
変わらない日々を送ることが大切なのだと、よく、彼女の祖父は言っていた。
「リコ、体調はどうだい?」
朝の挨拶もしないうちに心配をしてくるのは、イウォールだ。
「だから大丈夫ですってば……昨日は至れり尽くせりでしたし……」
「いやいや、添い寝もできていないんだから、至れり尽くせりとは」
「添い寝はけっこう!」
コーヒーを飲みつつ、今日のお昼の準備をしていくが、今日は暑さが厳しい予報なので、トマトの冷製パスタにしてある。
トマトの下準備を任せ、莉子は店内の清掃と、準備だ。
「今日はどれぐらいになるかなぁ……暑いから少ないかな……」
メニュー看板を書きかえ、外に置く。
これがオープンの合図だ。
さっそくモーニングタイムに、靖さんの登場だ。
「今日はパスタランチにしようかなぁ」
そう言いつつ、カウンターに腰をかけると、本を開くが、今日は一番最初のページだ。
「靖さん、この前の本、誰が犯人だったんです?」
「あれね、主人公だったんだよ! 初めて当たったよぉ! いやぁ、爽快だったねぇ!」
「おめでとう! なんか嬉しいから、食後にケーキ御馳走するね」
「いいのかい? ケーキなんて久しぶりだなぁ。果物がたくさんのってるのがいいな」
「あー、フルーツタルトね。今日のタルトはベリーたっぷりだから、靖さんも気に」
ここで声が途切れたのは意味がある。
「おはよう、リコー!」
エリシャが抱きついてきたのだ。
「昨日会えなくて本当に寂しかったぁ……あ、聞いて、あのね」
「エリシャさん、近いし、抱きつかないで欲しいし、お客さんなんだから席についてください」
莉子の声には従順なのか、すぐに靖の隣のカウンターに腰を下ろすと、
「モーニング クダサイ」
いつもの片言の日本語で注文だ。
それがなぜか可愛らしくて、莉子は思わず笑ってしまう。
「なによ、リコ。私の日本語、おかしい?」
「違いますよ。うーん……かわいい、って気持ちですね」
「ほんと? 私、かわいいなんて言われないから嬉しいっ」
2人分のコーヒーを入れていると、厨房からイウォールが顔を出した。
「リコ、トマトの湯むきと下処理、マリネにもしたから問題ない。サラダの準備も終えて、あとは……あ、エリシャ!」
「あーら、イウォール、裏方がお似合いですこと」
「うるさい! 私はリコの完璧なパートナーだからな。お前は、この場所には入れんだろうっ!」
ぐぬぬっ! と聞こえてきそうなエリシャの顔だが、確かにここには入れない。
それは店員とお客の境界線、カウンターの外側と内側だからだ。
「はいはい、うるさいですよぉ……。靖さん、ごめんね、朝から騒々しくて」
「いやいや、こういうのも、たまには、いいよ、たまには」
強調されてる………!
この空気を読み取ったイウォールとエリシャは少し小声で話し出す。
「イウォール、これは私からの挑戦状よ。あなたはこれを受ける義務があるし、そして、負ける未来しかない……」
「どんなものだ? 私が負ける戦は、ありえない」
「それは、『エルフを今週日曜日までにどれだけ呼び込めるか』……さぁ、勝負よ、イウォール!」
そんな勝負だと!? と言わんばかりの顔つきだが、莉子がぼそりと、
「それ、どうやってお客さん見分けるんです?」
再び衝撃の顔つき!!!!
「……じゃあ、私とイウォールでそれぞれに宣伝を打ちましょう。打ち方はなんでもいいわ。SNSでもなんでも。開始する時間を決めた方がいいわね……そうね、18時以降とかどうかしら。で、宣伝のマークを見せないと入れない仕組みにするの。今日から金曜日まで宣伝。土曜日と日曜日限定。エルフだけの日があるのも面白いと思わない?」
莉子はエリシャの話を聞きながら、想像を膨らませていく。
「……いいかもしれませんね。確かに、エルフさんが来てくれないと意味がないですし……」
「なら、決まりね!」
そうしてまず始まったのが、どう宣伝するか、だ。
エリシャはすでに算段は整っているようで、鼻歌まじりにコーヒーをすすっている。
イウォールはというと、さっそく呼び出したのは、トゥーマとアキラだ。
最初のコメントを投稿しよう!