第54話 始まったエルフ祭り

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第54話 始まったエルフ祭り

 一番最初に来店したのは、トゥーマの友だちだ。 「久しぶりだな! お前んとこの業績どうよ?」  トゥーマが声をかけると、3人それぞれにハグをしていくが、聞こえる話を統合すると、みんな、実業家、のようだ。  しかしながら、みなさま、金色の髪に長い耳、そして、美しい顔立ち…… 「……眼福ですね」 「リコ、煮込みもの、味をみてくれるか」 「あ、はいはい」  莉子はカウンターに立つ形で料理を確認、配膳の手配や食器の補充の指示などに動く。  イウォールは莉子の声掛けに合わせ、料理を仕上げたり、追加を作ったりと、男仕事だ。  ケレヴはおもてなしの心を忘れず、女の子中心に声をかけながら、ほぼ口説きながら動くので、莉子の蹴りが入ったところだ。 「ケレヴさん、ドリンクの補充、ちゃんとしてくださいよ!」 「へいへい。……お、カーレンとトゥーマ、息合った動きしてるな」  トゥーマがお金を受け取り、お釣りなど手渡しする間に、カーレンがドリンクを用意すると言う流れにしたようだ。  お互いに気遣いながらの作業だが、コミュニケーションも問題ないよう。カーレンが薄くだが笑っているのがわかる。 「カーレンさんも楽しそうでよかった。ねぇ、ケレヴさん、カーレンさんみたいなせいれ……」  大きな手で口がふさがれる。 「リコ、カーレンのこと、喋るなよ」 「……?」 「終わってから事情は話す」  何がマズいのかわからない……!  マズいのであれば、エリシャが連れてきた時点で問題なんじゃないのか!?  そうではない意味もわからないし、話せない意味もわからない───  莉子はどうにも腑に落ちないが、今は営業に集中するべき。  エリシャと目が合う。  エリシャの手が軽く上げられ、掌が1回、そして、指が3本立った。 「……80名……うそっ」  時計を見ると、まだ開始1時間も経っていない。  お互いどれほどの関係者が来ているかわかりかねるが、それでも80名だ。  きっと今がピークだ! 「料理、追加いきまーすっ!」  莉子の声に合わせて、イウォールが料理を盛り付け、それをケレヴが運ぶこと、何回だろう……  もう、訳がわからない状況だ。  ……そう、あれがピークではなかったのだ。  店内の人は、入れ替わっていくが、量が変わらない。  ケレヴの機転で、外にドリンクの受け渡し場所を設けたことで、先にドリンクを楽しんだ人が、空いたのを見計らい入ってくる。彼らが出る。そしたら入店……と、人がまんべんなく、外と中に居座る形に。  ドリンクはばかばかはけるし、料理はすぐになくなるし……と、予想を上回る人数が来たのは、体感でわかる。  ──現在、夜中の1時。 「閉店準備、終わったぞ、リコ」 「ありがとうございます、イウォールさん」  食洗機に食器をつっこみおえた莉子がため息まじりに言った。  ケレヴとトゥーマ、アキラは外のゴミの片付けや、椅子の整理などを行ってくれている。  エリシャとカーレンは、今日の売り上げの確認だ。 「……こんなはずじゃなかったのに」  そうぼやくのはエリシャだ。 「もっと和気藹々とエルフが語りあうイメージだったのに! 本当に戦争だったわ!」 「……すごく、疲れた」  2人でブツブツ言いつつも、現金を数えるのはやめない。  彼らの責任感は高い。 「はぁ〜……リコ、ビールもらうからなー!」  ケレヴが外から戻るなり、瓶ビールに手を伸ばす。器用に歯で栓を抜くと、一気に飲み込んでいく。それにつられるように、トゥーマとアキラもビールを飲み込んでいく。 「……ぷはぁ! そうだ、カーレンとエリシャもどうだ?」  氷水から出したビールをざっくりと拭き、トゥーマがビールを差し出した。  それをカーレンがじっと見つめるが、風をきる動きでビールを取る。  彼女は親指で栓を弾くと、一気飲み込んだ。 「……ふぅ。……エリシャも飲むといいよ。スッキリするから……」 「カーレン、ありがとう。でも、私はお酒苦手だからいいわ」 「それならコーラとかは?」  莉子が瓶のコーラを手渡すと、エリシャは嬉しそうに受け取った。 「ありがとう。炭酸は好きなのっ」  イウォールもビールに口をつけた。飲み干してから、満足そうに息をつく。 「かなり大盛況だったな。やってよかった」 「そうですね! 実際、今日は何名来たんですか?」 「157名。私側が67名で、そっちが90……! なんでよ! 発案したの私なのに!!!」 「……エリシャ、叫ばない。うるさい」  莉子もビールに口をつけながら、明日をイメージする。 「明日は午後3時からエルフタイムです。アルコールももちろんですが、軽食とデザートを中心にしています。今日は男性が多かったので、女性が来てくれると嬉しいですね〜」 「そうだな。幅広い層に来てもらえるとありがたいな」  ケレヴがもう1本、ビールを飲みながら、ジャケットに手をかける。 「じゃ、また明日な〜。12時くらいに来るわ」 「さ、僕らも明日の準備しないとね。トゥーマ、帰ろう」 「そうするか。また明日な、リコ。カーレン、また明日がんばろうな!」 「……うん、がんばる。……ほら、エリシャ、帰ろう」 「お金は……よし! 大丈夫! でも、心配だから、もう一度明日集計見直そうかしらね。少し早めに来るかも。大丈夫かしら、リコ?」 「いいですよ、エリシャさん。あたしがもう一度確認します」 「頼まれたことは最後までやるのが私の信条よ! じゃ、カーレン、帰りましょう」 「……うん。リコ、今日は疲れたけど、楽しかった。ありがとう」 「いえいえ! こちらこそ、ありがとうございます! 明日も、よろしくお願いしますっ」  バタバタと帰ってきた彼らを見送り、改めて店の鍵を閉め、金庫を閉めて、厨房に立った2人は、握手を交わす。 「明日もがんばろう、リコ」 「はい、がんばりますよ!」  そう言って部屋に戻った莉子だったが、シャワーを浴びながら、ケレヴから口止めされていたことを思い出していた。 「……一体、アレ、なんだったんだろ……。明日、終わってから聞いてみるか」  目が冴えてしまったのは、疑問が持ち越しとなったせいではない。  明日はどんな客層が、どれぐらいの勢いで来店するのか……  想像できない状況に、緊張しているのだ。  体がへとへとなのに眠れないこの感じは、まだ店になれない頃のよう。  不安でたまらなかった頃が何度もフラッシュバックする。 「……でも、もう、独りじゃない……」  莉子はあえて口にした。 『独りじゃない』  これがどれだけ心強いか。  そう思いを巡らせていると、いつの間にか、莉子の意識は遠くへと運ばれていた。
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