第55話 エルフ祭り 最終日

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第55話 エルフ祭り 最終日

 本日、7月19日、日曜日。『エルフ祭り』のみの営業だ。  カレンダーに×印をつけたイウォールが腕組みをしながら唸っている。 「このタイミングでこのイベントは大きな成果になるな……」 「イウォールさん、エリシャさんにお礼言わなきゃダメですね」 「え、いや、私だって、考えていたんだぞ?」  軽食中心の今日は、各種サンドイッチ、マカロニサラダなど、ちょっぴりこってりしていながら食べやすいものをはじめ、いつも頼んでいる洋菓子店よりケーキも準備している。今日は5種類のケーキだが、スクエア型に作ってもらい、こちらで切り分けて出していく予定だ。 「……あの、イウォールさん、」 「なんだ、リコ」 「今日のケーキって、あたしたち作ってないから、モノクロになっちゃうってことですよね?」 チッ! チッ! チッ!  指を立てて舌を鳴らしたイウォールは、背中から白い粉の袋を莉子へと掲げる。 「これを見て欲しい、リコ」 「……やばい、粉、ですか……」 「そう、やばい粉だ!」 「ちょ、製薬会社だからって、ダメですよ、そんな粉!!!!」  焦りながら、その粉を奪おうとする莉子にイウォールは目を点にする。 「リコ、これは粉砂糖だ。粉糖。砂糖。わかる?」 「……え」 「私は今日のために、必死に魔力を与え続けた粉糖なんだ!!!! これを振りかければ、カラーに見えるんだよ!」 「……はぁ」 「感動が薄いな、リコ」 「いや、なんか拍子抜けっていうか……」  2人は気を引き締め直し作業を開始していくが、唐突に莉子の独り言が止まらなくなる。 「皿よし、グラスよし、ワインは大丈夫、水も大丈夫。水出しコーヒーはボトルにできるだけ作ったし、アイスティーも作ったし……ノンアルのフルーツポンチも、あと炭酸注げばオーケーでしょ? あとは、サラダと揚げ物いるかな? いや、それよりもフルーツの切り出しと……」 「リコ、焦るな。準備は大丈夫だ。もうすぐケレヴたちも来る。店内は彼らに任せればいい」 「そそそそそそそうだけど、もしかすると家族連れとかあるかなって……! 立食スタイル、大丈夫かなぁ。あ! フライドポテトも作らなきゃ」 「なるほどな。では、店内の人数制限を昨日と同じくかけながら、テーブル席を増やそう。ドリンクは外で渡すやり方はそのままでいこう。テイクアウトのドリンクなら、別にエルフ以外に売っても問題ないしな。リコはさすがだな!」 「い、いえ、そんなことは……」  イウォールが心配事をなくすように言葉にしてくれることで、莉子は安心したのか、息をゆっくりと整えていく。  その肩をイウォールはなでながら、 「大丈夫だ、私がいる。いや、私だけじゃなく、このイベントを成功させたいと、みんな思っている。私はリコの将来の夫だからな、全て成功させるにきま」 「頑張ります、あたし!」  莉子がイウォールの声を遮りながら、裏拳で顎を振り抜いたとき、ドアがいきなり、バーン! と開いた。 「私が来たわーーー!!! 今日こそは、勝つわよっ」 「……おはよう、リコ、イウォール。エリシャ、ずっとはしゃいでる。うるさい」 「うるさいって言わないでちょうだいよ、カーレン。私との仲でしょ?」 「……だから言うの。うるさい」  2人のやりとりに温度差を感じるが、これが2人の距離感なのだろう。  莉子が一息つこうと、コーヒーをいれにカウンターに入ったとき、ケレヴとトゥーマ、そして、アキラも現れた。 「おっす。コーヒーくれるの? じゃ、俺、ミルク多めで。……よし、先にテーブル移動すっか。トゥーマ、アキラ、ドリンク運べよ」 「やるけど、重いのはケレヴが持てよ。オレとトゥーマは外の席、作ってくるから」 「はぁ? 老体に重いもの持たせんなよ」 「ケレヴが老体なら、マスター・イウォールは仙人ですね」 「アキラ、聞こえたぞ。私はケレヴとは、200くらいしか離れていない」  エルフジョークというやつだろうか。  年齢の概念が壊れていく気がする。  莉子は彼らの会話を切り離し、コーヒーをいれて一服すると、改めて今日の客層の予想をしながら作業を進めていく───
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