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第6話 エルフと人間
莉子は素早く動き出した。
なぜならこの店を切り盛りしているのは彼女ひとり。
他のお客のオーダーをさばきながら、ドリンクを出し、会計をし、料理を作らなければならないのだ。
OLやサラリーマンで席が埋まり始めている。
莉子はさらりと店内を見回しながら、素早く準備を整えていく───
木のケースに入れられたカトラリーといっしょにエルフの2人に届いたのは、手のひらほどの木製ボウルに盛り付けられたサラダだ。
張りのある葉野菜と少し変わった茹で野菜が盛りつけられている。黄色の人参やロマネスコ、アイスプラントが散らばっていて、目で楽しめるサラダだ。
すでにかけられていたドレッシングはオリーブオイルの風味がいい。粒マスタードも散らばっていて、食欲がそそられる。
『トゥーマ、このサラダ、キレイ……色がついてみえるよ! すっごく、おいしそう』
小声で話しかけるのは金髪の青年だ。
『本当だ……! なぁ、アキラ、あの料理人は魔法使いか?』
トゥーマと呼ばれた青年は、小声ながらも興奮気味に話し、大きく葉野菜を頬張った。
彼らの言葉はエルフ語であるため、この店内にいる人は聞き取れないだろう。
だが、この日本語は彼らは聞き取れてしまう。
今も───
「あのエルフ、ちょーイケメン。タレント並みじゃない?」
「やばい。話しかけてきなよぉ」
「えー、ムリムリ! エルフ語わかんないしぃ」
「あの言葉、マジやばいよね。なんか変だよね」
「音痴な人みたい」
「そーそー! マジ、きも!」
見た目が褒められることは多い。
だが、エルフ語だ。
ここの人間には、音の外れた歌のように聞こえてしまうこともある。
ギャップがありすぎるから起こるのかもしれないが、日本語が理解できるエルフの2人には、会話を続けるのが、どうしても辛くなる───
「お客様、こっちの言葉はエルフの方も聞き取れるものですので……少し、お控えに」
そう声をかけたのは莉子だった。
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