第6話 エルフと人間

1/1
前へ
/85ページ
次へ

第6話 エルフと人間

 莉子は素早く動き出した。  なぜならこの店を切り盛りしているのは彼女ひとり。  他のお客のオーダーをさばきながら、ドリンクを出し、会計をし、料理を作らなければならないのだ。  OLやサラリーマンで席が埋まり始めている。  莉子はさらりと店内を見回しながら、素早く準備を整えていく───  木のケースに入れられたカトラリーといっしょにエルフの2人に届いたのは、手のひらほどの木製ボウルに盛り付けられたサラダだ。  張りのある葉野菜と少し変わった茹で野菜が盛りつけられている。黄色の人参やロマネスコ、アイスプラントが散らばっていて、目で楽しめるサラダだ。  すでにかけられていたドレッシングはオリーブオイルの風味がいい。粒マスタードも散らばっていて、食欲がそそられる。 『トゥーマ、このサラダ、キレイ……色がついてみえるよ! すっごく、おいしそう』  小声で話しかけるのは金髪の青年だ。 『本当だ……! なぁ、アキラ、あの料理人は魔法使いか?』  トゥーマと呼ばれた青年は、小声ながらも興奮気味に話し、大きく葉野菜を頬張った。  彼らの言葉はエルフ語であるため、この店内にいる人は聞き取れないだろう。  だが、この日本語は彼らは聞き取れてしまう。  今も─── 「あのエルフ、ちょーイケメン。タレント並みじゃない?」 「やばい。話しかけてきなよぉ」 「えー、ムリムリ! エルフ語わかんないしぃ」 「あの言葉、マジやばいよね。なんか変だよね」 「音痴な人みたい」 「そーそー! マジ、きも!」  見た目が褒められることは多い。  だが、エルフ語だ。  ここの人間には、音の外れた歌のように聞こえてしまうこともある。  ギャップがありすぎるから起こるのかもしれないが、日本語が理解できるエルフの2人には、会話を続けるのが、どうしても辛くなる─── 「お客様、こっちの言葉はエルフの方も聞き取れるものですので……少し、お控えに」  そう声をかけたのは莉子だった。
/85ページ

最初のコメントを投稿しよう!

83人が本棚に入れています
本棚に追加