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何気ない日常に煙草と珈琲の香りを乗せて
高校2年最初の中間テスト。俺からすればこの高校に来て最初のテストだ。かなり入念な準備をして挑んだおかげか、意外と手応えはあった。
最後の教科、現代文が終わり解答用紙が回収されると俺はほっと一息つく。
ちなみに準備ってカンニングペーパーとかじゃないからね。勉強だよ。
と、まぁ誰に弁明しているのかはわからないが、とにかく俺はやり切ったのだ。
「おい颯人、どうだった?」
一息つき凝り固まった首を回していると、隣のイケメン野郎が話しかけてきた。
「んー、まぁぼちぼちってとこだな」
「へぇ、結構難しかったと思うんだけど」
「そうか?まぁ授業聞いてたらなんとかなるだろあれぐらい」
「お、言うねぇ」
そんな軽口を叩いていると、号令がかかり全てのテストが終了した。
皆、解放感からか「終わったー!」「遊びに行こうぜ!」など思い思いに羽を伸ばしている。
「相田くん平川くん、テストどうだった?」
すると新川が声をかけてきた。
「ま、ぼちぼちだな」
「俺も」
「ふふん、わたしは今回自信あるよ」
「へぇ、新川はいつも何位ぐらいなんだ?」
「んー、30位前後かな?」
意外と言うと失礼だが、かなり高い順位だったことに驚く。そんな俺に気づいたのか、新川は訝しげに顔を覗き込んできた。
「今意外とか思ったでしょ」
「え、いや、そんなことないぞ?」
「嘘、絶対思った!」
新川は俺の顔を凝視しながら徐々に近づいてくる。
ち、近い近い近い近い!
てかなんか良い匂いするしよく見るとさらに可愛いしなんか色々やばい。
「やっぱり2人は仲良いんだな」
隣にいた平川が茶化すように声をかけてくる。
すると新川はようやく俺との距離に気づいたのか、バッと椅子ごと後ろに飛び退いた。
「ご、ごごごごめん!」
「い、いや、こちらこそ」
お互い気恥ずかしくなり俯いて黙り込んでしまう。
そんないたたまれない雰囲気だったが、
「おーい、相田はいるか?」
直後教室の扉が開き、赤崎先生に呼ばれた。
「い、いってくるわ」
誤魔化すようにそそくさと退散する。
ナイスだ残ね……美人教師!
「……君、いつも思ってたんだが私に会う度に失礼なこと考えてないか?」
……こっわ。バレてんじゃねぇか。
「……気のせいですよ」
怪しむような視線を感じながらも俺はあたかも気づいてないかのようにひたすら前を向いて廊下を歩いていた。
◇◇◇
職員室へ入ると、真っ先に生徒指導室へと連れていかれた。
あっれー……なんかしたっけ俺。
ビクビクしながら生徒指導室へ入ると、真ん中にガラスのテーブルが置いてありそれを挟むようにソファーが並んでいた。
「まぁ座りたまえ。説教をするわけではないよ」
「……なら安心です」
先生と対面のソファーに腰かけると、上質なものなのか家のソファーよりも体が沈んでいく。先生はスーツの胸ポケットから煙草を取り出し火をつけると、そのまま大きく煙を肺へと送り込み、ふぅっと煙を吐いた。
「……この学校禁煙じゃないんですか?」
「この部屋はいいんだ。うちの学校の生徒は生徒指導とは無縁だからな。基本煙草を吸いにくる時にしか入らない」
「案外適当なんですねこの学校」
「ふっ、全くだ」
そう言いつつもう一度煙草を加えると大きく吸い込み、今度はゆっくりと煙を吐き出した。
するとポケットからあらかじめ用意していたのか、缶コーヒーを取り出し俺の前に差し出してきた。
「どうだ、学校生活は」
差し出されたコーヒーを受け取ろうとしたが、唐突な質問に俺は手を止めてしまう。どうと言われてもなんと言ったらいいのか答えが出て来ない。
「……まぁ、ぼちぼちです」
直ぐに缶コーヒーを受け取り答えた。
そんな当たり障りのない返答だったが、先生は満足気に頷いている。
「それでいい。友達とわいわいするのも良いが、何気ない普通の学生生活を謳歌するのもまた醍醐味というものだ。君が知らない学校生活を大いに楽しみなさい」
その時俺は先生がこの部屋にわざわざ連れてきた意味を理解した。
「……誰から聞いたんですか?」
「……明穂だよ。彼女とは古い付き合いでね。この学校に編入することが決まった時に面倒を見て欲しいと頼まれた」
明穂とは俺の叔母のことである。
なるほど、どうりで明穂さんがこの高校への編入を勧めてきたわけだ。
「それで、なにか言われたんですか?」
「なあに、ただ君の高校生活がどんなものか見ておいて欲しいというだけだよ。君は自分のことをあまり話さないそうだからな」
「……そっすね」
確かに俺は自分のことについて話さない。というか話すことがないからだ。過去のことも今のことも。
「君のことについては明穂から聞いている。……過去のこともな」
そう言うと先生は煙草を灰皿にぐりぐりと押しつけ、ソファーに深く座り直した。
「君の過去に何が起きたのかはほんの少しだが聞いた。けれど詳しいことは何も知らない。彼女もあまり話したがらなかったからな」
「別に隠してるわけじゃ——」
「——わかっているよ。けれどそのことは彼女にとっても避けたい話題なんだろう」
「……そういうもんなんですかね」
「あぁ、そういうものだよ」
そう言って先生は2本目のタバコを取り出し火をつける。今度も大きく吸ってふぅっと吐く。俺もそれに乗じて缶コーヒーを一口飲んだ。
すると先生は何か思い出したかのように「そうそう」と言って、
「君は新川と恋人関係なのか?」
「ブフォ!」
俺はその場でコーヒーを吹き出した。
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