たとえ星が降らなくても

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一瞬のことだったから、きっと誰にも見られていない。そもそも週半ばの火曜日。遅めの時間帯もあって、人はまばらだ。 「な、な、な、……」 目を大きく見開いた彼女の顔が、夜の歩道の灯りでもはっきりと分かるほど赤く染まっていく。 恥ずかしさのせいか、真っ赤な顔で俺をじろっと見上げてくる奈菜。 その顔にやられるんだって!狙ってやってんのか!?そんなわけない。ハチだもんな。 必死にそう自分に言い聞かせるしかない。 はぁっと腹から息をついて、もっと深く奪いたくなる衝動を逃がした。 「そろそろ行こうか。電車が無くなるぞ」 立ち止まったままの彼女をそのままに、先に歩き出した俺の後ろから、奈菜が小走りで追いついてきた。 「南雲」 「ん?」 「南雲」 「なに?」 「来年は一緒に星、見れたらいいね」 思わず足が止まる。 それって、来年も俺と一緒にいたいってことだよな? 「……晴れたらいいな。来年の七夕」 「うん!」 笑顔で頷いた彼女の後ろで、シャラリと星が音を立てる。 彼女の髪で光る星を見ていた俺のシャツの袖口を、彼女が少しだけつまんで引っ張った。 「どした?なんか忘れたのか?」 「ちっ、……ちがうもん。そんなにいっつも忘れたりしないし」 「じゃあどうした?」 首を傾げると、奈菜が伸びあがって俺の耳の近くに口を寄せてくる。立てた片手を添えているから、内緒話なのだと思った俺は、奈菜の方へ頭を傾けてやる。 「あのね、もうそろそろ、雨上がるんだって。だから………」 言いにくそうに一旦口をつぐんだ彼女は、思い切ったように俺の耳元で囁いた。 「南雲、ベガとアルタイル、今夜一緒に探してくれない?」
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