たとえ星が降らなくても

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「もーうっ!」 半ば叫びのような声を上げた彼女が、手に持ったビアグラスをテーブルの上に少し荒っぽく置いた。八つ当たりを受けたグラスの中で、琥珀の液がちゃぷんと揺れる。 「おい、こぼれるぞ。ビールに罪はないだろ」 「……分かってるもん」 ぷくっと頬を膨らませた彼女が、ツンと顎を逸らす。そしてそのまま、恨めしげな目つきで外を睨みつけた。 「……雨にも罪はないと思うけど?」 「……それも分かってる。でも、せっかくの……ビアガーデンなのに」 眉をきゅっと寄せたままの顔でそう言った彼女は、雨でけぶるビルの向こう側を見つめていた。 七月に入り、蒸し暑い気候が続く毎日。暑気払いを兼ねて、俺たちは仕事上がりにホテルのビアガーデンに来ていた。 ビアガーデンと言っても完全屋外ではなく、半屋外。屋根付きの広いバルコニーだから、雨に濡れる心配はない。 「睨んだって雨はやまないぞ、ハチ。ほら、これでも食っとけ」 言いながら、グリルポークと夏野菜の串焼きを差し出すと、彼女がやっとこっちを向いた。丸い目をさらに丸くした彼女。俺が差し出した串をじっと見ている。 (なんで受け取らないんだ?豚肉好きだったろ?) 何か言おうかと思ったその時。 彼女はおもむろに、俺が手に持ったままの串にパクリとかぶりついた。 「ん、……おいひい」 手に持つ串に残されたのは、こんがり焼けたズッキーニ。目の前には頬を膨らませた彼女。 勝手に緩もうとする頬を隠そうと、俺は再びビールをグっと呷った。
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