たとえ星が降らなくても

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驚いた顔をした奈菜が、勢いよく俺を振り仰いだ。 目が真ん丸になって、まんま子リス。くそ可愛い。 「なんで知ってんのか、って顔だな」 「だって………」 「あのな。何年お前と一緒にいると思ってんだよ」 「…………三年」 当たりだな、と思ったらぷはっと笑いが漏れた。 「その通り。その三年の間、おまえ毎年この時期になると『たばなたー、たなばたー』って騒ぐだろ」 だから天気よりも“七月七日”という日にちを狙って、雨天でも大丈夫な場所を選んだのだ。 「うぅっ、だって……一年に一回逢える日に、雨なんて可哀相じゃない……」 「織女(しょくじょ)牽牛(けんぎゅう)の逢瀬がか?ただの“ベガ”と“アルタイル”って星だろ?」 「……南雲(なぐも)、詳しいんだね」 大きな黒目をくりっとして瞬きをパチパチと二回した奈菜が、ぽかんとした顔で見上げてくる。だからその顔はやめろ。 「夏の大三角の星くらい誰でも知ってるだろ?」 「そうだけど、じゃなくて。『織女と牽牛』なんて言い方、あんまりしないよ?普通『織姫と彦星』じゃない?」 「そうか?」 しれっと聞き返したけれど、少しドキッとした。ポケットにつっこんだままの片手をギュッと握る。 おまえが毎年騒ぐから、こっちも気になって調べたんだよ―――とは、言わない。
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