たとえ星が降らなくても

9/13
前へ
/13ページ
次へ
「ああーーっ!何すんのよ、もう!グシャグシャになっちゃったじゃない……」 「もう帰るだけだけど」とぼやきながら、彼女は一つにくくっていた布製のゴム(シュシュというらしい)を解く。栗色の髪がふわっと肩に広がって落ちる。柔らかそうな髪がくすぐっていく、白くて細いうなじから目が離せない。 髪をくくり直す為に上げた彼女の手首を、俺はとっさに掴んだ。 「な、なぐも?」 突然手首を掴まれてぎょっとしたのか、彼女が目を丸くしている。 じっと見つめると、「ど、どうかした?」と少し焦った顔で言う。 俺はそれには何も返さず、彼女の手首を握っているのとは反対側の手。ずっとポケットにつっこんだままだったそれを、ゆっくりと引き抜いた。 「手。出して」 「え?」 「手のひら。出して」 「ん?こう?」 彼女は俺に掴まれているのとは逆側の手を、手のひらを上にして俺の前に差し出した。 「南雲?」 疑問符が沢山飛んでいるのを感じながら、俺は敢えて彼女の顔を見ずに、小さな手のひらの上に、握っていたものをポトンと落とした。 「え、……こ、これ」 突然手のひらに乗せられたものに驚いている彼女に、俺は一言「やる」と口にした。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

210人が本棚に入れています
本棚に追加