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「中村さん、自殺したらしいぜ」  久しぶりの帰省、当時の仲間と飲んでいた時だった。中学時代の話に盛り上がり「そういや、中村さんって覚えてる?」と誰かが切り出した。    中村さん? 最初僕は彼女の名前を忘れていたが、「ほら、二年の時お前に付き纏ってた」と言われ、ああと僕は中村と呼ばれた彼女の顔、ではなく、全く別の少女のこと思い出していた。  中村さんについては彼女の言動は今でも苦い思い出として覚えていたが、名前と顔がリンクしても大した感動もなく他人事のような思い出が蘇るばかりだった。 「へえ、自殺したん。なんで」  つい、あの少女の訛りが数十年ぶりに僕に移った。  中村さん自体には興味がなかったが、自殺した動機が気になるほどには僕も下衆になった。いや、昔からか。 「いや、知らね。なんか首吊って死んだって成人式の時S子が言ってたわ」 「まじ、俺は男に振られてリスカしたって違う奴から聞いたけど」 「どっちだよ」  笑う僕は内心噂というものは怖いなと人間の醜さを垣間見た気がした。 「まあ、どっちにしろロクな死に方じゃなかったんじゃね。あいつ、高校でもめっちゃ浮いてたからな」  机を隔てた先の目の前のAが嫌そうな顔をして組んだ手を後頭に回す。そのまま後ろの背もたれとなった敷居に凭れた。 「そういえばお前、あいつと同じ高校だっけ」  僕と同じ高校に進学した隣のBが反応する。 「おお、ずっと一人で飯食ってたな。なんか、裏表が激しい……みたいな? そんで女子が面倒臭くなって誰も関わろうとしなかったらしい」  それにさ……。Aはビールが入ったジョッキを掴んで嫌々しく話を続けた。 「当時の元カノが言ってたんたけど、左手にリスカの跡があったらしい。体育のときにチラッと見えたんだと」  Aは残り少ないビールを呷る。  大方、脈から少し離れた箇所に携帯ハサミで何度押し付けるようにして切ったのだろう。 「援交してたって噂もあったわ」 「やべーじゃん」 「そういえば、お前の元カノもそうだったよな」 「俺のは援交じゃねーよ。おっさんと二股かけられてただけだわ」  この辺りから中村さんの話は潮を引いていき、話題は現状報告から彼女がいるのか最近のおかずはなんだの下ネタで盛り上がったりと、その頃には皆随分と出来上がっていた。  実家に帰ると高校時代で時が止まった自室に入る。僕は机の一番広い引き出しを開けて中学時代のアルバムを引っ張り出した。  自分の顔写真を発見し、懐かしさとあまりの芋っぽい顔つきにもう少し小綺麗に撮れただろうと変にがっかりして思わず笑ってしまった。  次のページを捲ると中村さんがいた。一重で薄唇の彼女は儚さがる美人だと思っていたが自分がそう思っていただけで記憶していた顔とは少し平たく不細工で、勝手に記憶を美化補正されていたのかと自分が年をとったことを再確認されたようで悲しくなった。ただ単に写真写りが悪だけかもしれないが。  アルバムを引き出しに戻し、僕はベッドに仰向けで寝転び中学の頃を思い出す。  居酒屋で中村さんの話題になった時、僕は訳ありそうな彼女よりもあの少女の事を思い出し、また懐かしく、もう一度会いたいとも寂しくなった。もう会えないとわかっている僕は中村さんの死なんてどうでも良いほど悲しく、プール終わりのような懐かしさが滲む喪失感がじわじわ身体を重くしていく。  し、と心が嘯く前に、身体が危険信号を鳴らし、いかんいかんと、その感情を抑え込もうと気分転換に携帯を開いて動画サイトでゲーム実況を視聴した。  あの少女は    騒がしくも可愛い  僕の友達だった。
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