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5話
僕たちが案内された席は人数に不釣り合いなソファと椅子のファミリー席だった。
「ソファーがいいんよ」
どがっと勢いよくソファに飛び込んで弾んだ少女の体。正直、僕もソファが良かったが、隣に座るのも変に思われそうで恥ずかしく仕方なく斜向かいの椅子に腰を下ろした。
少女がテーブルの端に掛けてあったメニュー表を引き抜いて取ると、さて何を食べようかと瞳を楽しそうに弾ませてメニューを捲っている。
僕も端から同じメニュー表を引き抜いて何を頼むか悩む。
「よし決めた」
少女はしばらく考えて決まったのか見開きのメニュー表を勢いよく閉じた。
「少年、決まったか」
「……ちょっと待って」
僕はというと、ハンバークかステーキがで迷っていた。やっとステーキに決めると今度はご飯と味噌汁のセットか、またはご飯とコーンスープのセットにするべきかここでも迷っていた。
「はよせいや」
「あとちょっと……」
不機嫌そうに顔を顰めて僕を見る少女を余所にステーキに合うセットの決断に迷っていた。
「おそいわ」
「ちょっ!」
僕の決断を最後まで待たず痺れを切らした少女は呼び出しボタンを押す。
先ほど席案内をしてくれた店員が分厚い携帯のような機器をもってやって来た。
「わたし、これな」
少女はメニュー表を開いてハンバークを指差す。店員は携帯のような長細い機器に何やら記録するとメニューに載っているセット内容の箇所を指差した。
「うん、それな」
指差していたのはご飯と味噌汁のセットだった。
少女の注文を機器に入力し終えた店員が僕の方に体を向ける。注文を聞きもらせまいと猫背の姿勢に機器を両手に持って僕の注文を待っている。
「ええっと、じゃあ僕はこのステーキと……ご、ごはんと味噌汁のセットを、お、お願いします」
注文を聞き終えた店員がキッチンへと戻っていく。
「勝手に押さないでよ」
呼びさしボタンを勝手に押した少女を注意する。
「いつまでもグタグタまよってる自分がわるいんやろ」
小生意気な少女の物言いに腹を立つつもどうせ何を言っても無駄な気がして僕は口を噤んだ。
「少年は今いくつなん」
「十四歳。……君は?」
「レデェイに年なんてきくもんじゃないで」
手の甲を頬に当てた少女は背中ほどある黒髪を偉そうに払う。女性ということを強く主張しすぎたせいかジャマイカ生まれの音楽になりつつある。
「君、親は?」
「黄身じゃありませーん。たまごじゃありませーん」
気怠げなボイコットのような口ぶりで少女はソファに凭れこむ。
「ーーの親は? 勝手に来て良かったの?」
「おらん。気にせんで」
少女はおしぼりの薄い袋を開けて手を拭きながら素っ気なく答えた。
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