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6話
暇を持て余した少女は、おしぼりをテーブルに敷いては角を中央に向けて折りたたんでは折り紙のように遊んでいた。すぐにそれすらも飽きて「ジュースとってくる」と立ち上がりドリンクバーへと走っていた。
落ち着きのない奴。
ドリンクバーから戻ってきた少女の手には片方ずつにコップが、中の飲み物を溢さないよう慎重に歩いている。
コーラを僕の目の前に置いた。少女に礼を言うと「べつにぃ」と照れくさそうに口を尖らせていた。
店員が僕たちの注文した料理をワゴンに乗せて持ってきた。
「はらへったなー、たべよたべよ」
まだ店員が料理の品々をテーブルに置いている最中だというのに少女は端に置いてあったカトラリーケースからナイフとフォークを取り出して無邪気にはしゃいでいる。
僕が頼んだステーキは鉄板からはみ出るほど大きく、香ばしい匂いと共に肉汁が弾ける音が摂食中枢を刺激する。小皿に入ったソースをかければ音が更に増したようの気がして食欲はその激しさと比例して唾を飲み込んだ。
ナイフで切った一切れの肉の断面はごはんを掻き込みたくなるちょうど良い赤みをしていた。僕はその一切れをフォークに刺して口内へとまるっと一口で運んだ。舌を火傷しそうになりながら唇をはふはふ慌てて動かしながらソースが絡んだステーキを噛みしめる。
今思えば所詮夢、されど夢なのだからもっと美味しいを堪能すればよかったな。当時の僕はこの先のことが気かがりであまりこの現状を楽しめなかった。
料理を待っていた時と打って変わって一言も話さない少女。見るとソースが絡んだナイフとフォークを紙ナプキンの上に乱雑において箸にシフトチェンジしてせかせかと料理を食らっている。まるで誰かに横取りされないかと警戒している野生児のようだった。ハンバークを食べたらご飯、ご飯を食べたら味噌汁と手元は忙しない。
「落ち着いて食べれば」
「たべようるわ」
少女は素っ気なく答えるとメロンソーダで口内と喉を潤してからまた忙しなくに食べ始める。
僕より先に食べ終わった少女は店員を呼び出してチョコレートパフェを頼む。僕がステーキを食べ終えた頃には、少女はパフェを中間ほど食べ終わっていた。
そして、ついに僕がこの先気かがりで恐れていたことがやって来た。
お会計だ。
もしかしたらと思い、少女がパフェを食している最中にズボンのポケットを弄ったが小銭なんて都合いいものは一銭も入っていなかった。
このままでは無銭飲食でそく悪夢だ。僕の顔から血の気が引いた。
レジに表示された値段を見て無一文の自分の立場に恐怖で足元がふわふわとしていると、カルトンにお札が飛んできた。
飛んできた隣を向くとガマ袋をもった少女がにこやかに僕へ振り仰いだ。
「おごったるわ」
「ありがとう……ございます」
初めての少女の夢はここで終わった。
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