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高野自身は過去に受け取っただろう父からは一言たりとて、そんな話は聞いたことはなかった。
流行に左右されない基本的なシングルで、祖父と孫である高野との体格にさほど違いがなかったのが幸いした。
実際のところ、素人の高野が嘆くほどには『お直し』の手間は大したことがなかった。
清司が孫の、自分よりもがっしりとした肩の上に手のひらを置いた。
ザラリとした手触りの織りの特徴から鮫肌と呼ばれている生地だった。
「いいものだから少しもくたびれていないな。当時は奮発したからな!」
誇らしげに言う祖父に、高野はお義理やお愛想ではなく興味をそそられる。
「へぇ、幾らくらいしたの?」
清司は新卒から定年退職まで勤め上げた生え抜きの銀行員だった。
最終的には支店長クラスまでは出世したはずだった。
――話が長くなるのは火を見るよりも明らかだったので、未だに水を向けたことはなかったが。
そんな祖父が張り込んだと言うのだから、さぞかし・・・・・・
清司がやや低めた声で真相を告白してくる。
「賞与が一回分、丸々飛んだ」
「――貴美子さんはそのこと知ってんの?」
自分の想像を軽く超えてきた祖父の豪気振りに、高野は祖母の反応を気にせずにはいられない。
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