恋の予感

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恋の予感

初めて彼女をみかけたのは夏だった。 うちの課長が大手銀行の関西にある支店に飛び込み営業に行き、口をきいてもらえて取引が始まって本社から谷口課長が表彰されたすぐ後だった。 そこの副支店長の娘さんがうちの会社にエントリーすることになったらしく、(いわゆる課長のコネで)課長がランチに誘って課に来るように言ったためやってきたのだ。 リクルートスーツに身を包み、肩にかかるかどうかのボブヘアーが似合うかわいらしい女の子だった。 「すみません、岡野と申しますが課長の谷口さんいらっしゃいますでしょうか?」 入り口近くの女子社員に声をかけたその声はとても通る声で奥にいた僕にもよく聞こえた。そして岡野という名前に課の全員が一瞬ざわめいた。 「ねぇ、あれB銀行の岡野副支店長の娘さんだよね。」 「そうやんな、めっちゃかわいない?」 「ほんまや。」 最近の学生は言葉遣いが微妙な子が多い中、女子社員よりも丁寧にしゃべっていた。 「岡野さん、すみません、わざわざきていただいて!」 当の谷口課長は奥のスペースで打ち合わせ中だったが、その声が聞こえたのかさらによく通る大きな声で入り口まで早足でやってきた。 「いえ、こちらこそお忙しい中ありがとうございます。」 「まだちょっと時間あるからここで座って待っててもらえるかな?」 「あ、はい。ありがとうございます。」 受け付けのカウンターの端っこに座った彼女は出されたお茶を一口飲んでめずらしそうに事務所の中をキョロキョロしていた。 「こんにちは!」 隣の2課のハデな内山がきゃぴきゃぴしながら彼女に声をかけていた。 仕事中だというのに相変わらずだ。 「・・・ったく。内山のやつ仕事そっちのけで声かけてるな。まぁ、女子が声かけたほうが気がまぎれるかな。それにしても岡野副支店長の娘さん、かわいいですね。」 電話の終わった新井が僕に声をかけてきた。 新井はまだ今年入社したばかりだけれど、なかなか仕事のできるやつで指導担当の僕にとってはやりやすくて助かっている。 「ああ、内山とえらい違いやな。」 「ひょっとして先輩、彼女みたいな子好みですか?」 「・・・なんで?」 「いや、先輩、めずらしく完全に手とまってますよ。」 おっといけない。ついじっとみてしまった。 返事をしないでいると新井がまた言った。 「ふーん、先輩も好み一緒かぁ。。。」 なっ・・・・余計なことを言うとまたこいつはからかってきそうだからほうっておこう。 昼休み5分前になり、課長がホワイトボードに会食と書いて彼女に声をかけて一緒に出ていった。 「いーなー、たぶんあの絶品ウナギ食べに行ったよ。」 内山が仕事もせずにブツブツ言っていた。 ああ、あそこの鰻は確かに絶品だ。しかも課長のおごりだから特上のはず。 思い出しただけでも僕も涎がでてきそうになった。 だからといって僕らの稼ぎではランチでも敷居が高いからいけないけれど。
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