偽装恋人 〜富豪の娘と庶民の息子の間にある溝は埋めがたいようです〜

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「ねえ、近藤くん」  驚いて顔を上げる。  櫻小路さんの目は、グラウンドの外に注がれていたが、今のは僕に向けられた言葉で間違いないだろう。さすがに。 「……何?」  思ったより無愛想な返事になってしまった。  けど言い直すのも変で、僕は彼女の続く言葉を待つ。 「お願いがあるんだよね」 「僕にできることなら聞くけど」  今度は食い気味になってしまった。  会話って難しい……。 「私の恋人になってほしいの」  頭が真っ白になった。  一方、どこかで悪魔――いや、天使か?――の声が聞こえる。 「愛の告白であるはずがない、彼女とお前だぞ? 格が違いすぎる。妄想か、そうでなければなにか事情があるはずだ」と。  僕はの意見に同意した。 「え、ど、どう、どういうこと?」  どもったのは、もう仕方ない。  陰キャの宿命である。  むしろ最後まで言えた自分を褒めたいくらいだ。    櫻小路さんは、僕の慌てぶりが面白かったのか、クスリと笑った。 「あ、これじゃ語弊があるね。正確に言うと、私の偽装恋人になってほしいの」  この紛らわしい言い方は、確信犯だ。  僕はそう確信したが、ツッコめるはずがない。  それに、彼女が言った内容も気になった。
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