偽装恋人 〜富豪の娘と庶民の息子の間にある溝は埋めがたいようです〜

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「……偽装恋人?」  櫻小路さんは、楽しげな微笑みをこちらに向ける。 「そう、偽装恋人」 「……どういうこと?」  僕の口から漏れたのは、そんなありふれた疑問。 「簡単に言うと、私、政略結婚させられそうなんだよね」 「……え?」  政略結婚。自由恋愛のこの現代にはそぐわない言葉だ。 「私の家、俗に言う『名門』だからさ、そんなことが本当にあるんだよ。でも、私は親から決められた結婚なんてイヤ。そうお父さまに言ったら、『夏休みまでに恋人を連れてこい』だって」 「はぁ」  とりあえず、櫻小路さんがお嬢様だという噂は本当だったらしい。   「ほら、私彼氏いないじゃん? だから、偽物を作るしかないんだけど……」 「期間限定で付き合えばいいんじゃないの?」    櫻小路さんなら引く手あまただろう。  金を払ってでも恋人になりたい、という人間は多そうだ。  名門のお嬢様ならお金は役に立たなそうだけど。 「でも、それに付き合わされる男の子に、失礼じゃない?」 「……それはまあ確かにそうかな」  それでもいい、という人が多いのは確信できるけど、その恋人が『期間限定』という約束を守るとは、確信できない。 「だから、最初から偽装ってちゃんと説明しておいたの」 「でも君、一番最初に言ってなかったよね」  思わず心の声が漏れてしまう。  こういう、ある種の親しみやすさも、彼女の魅力の一つなんだろう。 「男なんだから細かいことを気にしちゃだめよ」  その、『男だから』っていうのもこのご時世にはあまり良い言葉じゃなさそうだと思ったが、うざがられそうでそこまでは口にできない。
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