偽装恋人 〜富豪の娘と庶民の息子の間にある溝は埋めがたいようです〜

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「それならそれで、西園寺君とか成瀬君とかでもいいんじゃないの?」  僕はいわゆる陽キャたちの名を挙げる。  彼らは僕より遥かにイケメンで、スポーツもでき、同性でも格好いいとは思うほどだ。  個人的に好きかどうかはまた別の話だけれど。  櫻小路さんは、「う〜ん」と唸りつつ、細い指先を顎の先に当てた。  いちいち仕草も可愛らしい。  わかってやっているのは明らかで、清楚という印象は少し修正したほうがいいかもしれない。 「私、彼らの告白を断ったことがあるから……。それに、彼らだと勘違いされそうだと思わない?」  それは少し納得できる。  が、それと同時に思う。僕は、勘違いされそうでもない、と。身の程をわきまえているっていう褒め言葉かな? 「その点君なら、無用な勘違いするタイプじゃないでしょ? 物分りもそんなに悪そうじゃないし」  素晴らしく上から目線な評価だ。  光栄な評価です、とでも答えようか?  今まで――そこまで親しくなかったのが大きいんだろうけど――こんな彼女は見たことがない。  メッキが剥がれている、というのか。  これもわざとなのか。 「なんか、普段の印象と違う、みたいな顔をしてるね?」  そんなに顔に出ているものだろうか。 「だって、夏休み中同棲するわけだから、ここで取り繕ってもしょうがないかな、って。どうせ君だしね」    ちょっと待って。  今凄いパワーワードが出た気がしたんだけど。  同棲?  政略結婚並みに高校生――少なくとも僕――には合わない言葉だ。
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