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店を出たところで、正面に見えるマンションへ入ってみようと思い立つ。
比較的裕福な人間が暮らしていそうな十数階建て。コンビニ同様、入り口のガラスが破壊されている。中へ入るには都合がいいように思えた。
マンションは道向かいにあるため、向こう側へ渡れる場所を探さなければならなかった。周囲を確認すると、道を左へ進んだところに歩道橋が見える。
私は歩道橋を目指した。
途中、目的の場所と似た様式のマンションを見つけたが、入り口も同じように開かれたままになっていたにも関わらず、そちらへ入る気にはならなかった。
歩道橋を上り、橋の中心に差し掛かったところで見える景色に、思わず足を止める。
空を覆う大地。巨大な壁に挟まれたガラクタの道。全て境界を塗り潰す赤色を見つめ、気がつけば私は涙していた。
その刹那的な美しさに。その陳腐な儚さに。なにより、この期に及んで未だにそんな想いを抱く自分自身に、絶望を感じずにはいられないのだった。
しかしこの景色が、私の宿命を決定づけてくれた事も確かだった。
私は歩道橋を渡り、マンションの前へたどり着いた。
入り口にはインターフォンと部屋の番号が書かれた郵便受け。体を屈め、その先にある割れたガラスの間を潜り抜け中へ入る。
タイル張りの床に木目調の壁。中は外に比べ、より深い静けさに満たされている。沈黙にも段階というものがあるようだ。
正面にあるエレベーターのボタンを押したが反応がない。電気が通っていないらしい。私は横にある階段を上り始める。
何度も折れ曲がりながら上へ上へ向かっていく階段に、自分の足音が続く。
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