星降る夜に

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 見ず知らずの家族の生活と、その終わりがあった。つまりこの場所は、私のいた場所でもあるのだった。  ふと、最後に見た妻と娘の顔を思い出す。泣きじゃくる妻と激昂する娘の顔だ。  あれはいつの事だったろうか?  あれからどれくらいの時間が過ぎたのだろうか?  スマホを取り出し、妻へ電話をかけてみたが、電波が届かないらしく、呼び出し音すら聞こえてこなかった。  諦めて床へスマホを放ると、大きな音を立てて転がったスマホは、忽ちこの部屋の一部となる。  カーテンの奥にある窓からベランダへ出た。一畳程の狭いベランダの柵の上へ肘をかけて佇む。  正面には商業ビルが、眼下にはさっきまで歩いていた道が、随分と遠いところに見える。  私はビニール袋からおにぎりを取り出した。口にしようと思ったのだが、梱包を剥がしたところでその行為の不毛さに気がつき、手を離す。  柵の外へ落下したおにぎりは、みるみる小さく、赤く染まっていき、最後には世界と同化を果たした。  続けて袋の別の中身も外へ落としてみると、カフェオレも、飴も、おにぎりと同様の末路を迎える。  一面が赤色に染まった世界で、それは歴然とした真実なのだった。私はその真実に、この世界に於ける唯一の救済を感じた。                     完。
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