7人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
その日、水場の精霊は休日だと言うのに早起きをした。
いや、早くに目が覚めたというのが正しい。
理由は明白だった。
「ああ、今日のデート、緊張する……」
寝床の上で上半身だけを起こし、水場の精霊はブクッという大きなため息とともにそう呟いた。
彼女とて年頃の精霊である。初めてのデートと言うわけではなかった。
しかし、ご無沙汰なのは確かだ。
「最後にデートしたのっていつだっけ?」
思い返し、樹木の精霊の事を思い出した。
「……ああ、そっか。あれのせいで私は……」
ただでさえ青めの顔をさらに青ざめさせ、ザザザザッと身を震わせる。
思い返すのも恐ろしい樹木の精霊は、デート中突然水場の精霊に根を下ろし、吸い上げようとしてきたのだ。曰く美味しそうだったから、との事だが、もちろん吸い上げられては水場の精霊がたまったものではない。その場でデートを打ち切って逃げかえってきた。
それ以前でも、水場の精霊は交際が長続きしたことが無かった。
雨の精霊と付き合った時には甘やかされ過ぎてダバダバと太り、日差しの精霊と交際した時には、彼の熱量についていけずに激やせした。風の精霊は良さそうな人に見えたが、じわじわとメンタルを削ってくるタイプで、気が付けばやっぱり痩せてしまっていた。
ザリガニの精霊に追い回されたこともある。
「あんたの顔が好みなんだ。巻貝、一口で良いから齧らせてくれよ」
荒い息でそう言いながら追いかけて来るザリガニの精霊は、タダの恐怖でしか無かった。
そして樹木の精霊に根を下ろされかけたのが完全に止めとなり、水場の精霊は自分の男を見る目が信じられなくなってしまったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!