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殺されるかもしれない
その時、俺のスマホが震えた。見ると、画面上には数字が並んでいる。登録していない番号ということだ。
――新規の生徒かな? なら、ラッキーなんだけど……。
しかし俺は、一瞬出るのを躊躇った。登録していないにもかかわらず、俺はその番号に何だか見覚えがあったのだ。
――まあいいか、取りあえず出てみよう。
俺は、匠さんに断って席を外すと、電話に出た。
「はい、風間……」
「風間! 良かった」
耳に飛び込んで来た声に、俺はドキリとした。それは、拓斗だった。
――何で? ああ、また会いたいとか、連絡するとか言ってたっけ。二人きりでなければ問題無いとか、誤解してたっぽいし……。
きっぱり断ろうとしたその時、拓斗はとんでもないことを言った。
「助けてくれないか? 俺、殺されるかもしれないんだ」
「殺……!? どういうことだよ?」
拓斗の口調は、真剣そのものだ。俺は思わず聞き返していた。
「今、○○にいるんだけど、ヤバイ連中にボコボコにされて……。動けねえんだ。頼む、助けに来てくれないか? こんなこと、他の奴に頼めないんだよ」
拓斗が告げた場所は、都内の有名な繁華街だった。この会場からも近い。しかし、俺は迷った。彰は、俺に観ていて欲しいと言っていた。
――途中で抜けるわけには……。
ためらう俺に向かって、拓斗は悲痛な声で訴える。
「急にこんなことを頼んで、本当に悪い。でも、一生の頼みだ。来てくれないか? 事情は後で説明するから。あいつらが戻って来たら、俺、今度こそ殺される……」
「分かった」
俺は、仕方なく頷いた。
――ちょっとの間だけだ。近いんだし、すぐ戻ればいい……。
俺は匠さんに、事情は伏せてすぐ戻るとだけ告げ、会場を後にした。
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