小説.1

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小説.1

口の中の砂利か何かが液体とともに口からこぼれてる。 それが初めに気付いた感覚。 そこからは驚きの連続だった。自分の両手が手首から無いのに驚き、胸元からズボンまで血まみれな事に驚き、足元に無惨な死体がある事に驚き、そばで人間の手足にかじりつき喰べている人間が居る事に驚く。最後に自分の両手の痛みを感じてない事に驚いた。 口の中にまだある違和感を吐き出す。赤い生肉の塊だった。俺は人の肉と理解。それ以外考えられない。 吐気が込み上げたが、吐けなかった。 戦争が始まったのかと思った。今までの日常とは違う景色。ネットで観た戦争の街そのもの。 建物や車から黒煙や火があがり、いたる所に死体が転がっていて、その死体を人間が覆いかぶさり漁っている。喰べている。 足元の死体を喰べていた人間が俺を見た。血の気のない真っ白な顔だった。口の周りと身体が血まみれ。 俺は、怖くて後ずさったが、ソイツも這いつくばったまま後ずさった。そして立ち上がり、俺を見ながら離れていき、近くにある死体にしゃがみ喰べ始めた。躊躇する事なく、当たり前のように。 俺は全てが理解出来なかった。 まともに動いてる人間は俺しか居ないように思えた。動きのあるのは、全て死体に群がる人間。 まともな人間は俺しか居ないのか? 「おーい。誰か」 と叫んだが、口から出たのは唸り声のような音だった。喉がおかしかった。 「なんだこりゃ」 呟きも濁語。舌は動くのだが滑舌がすこぶる悪い。 人の声が聞こえた。女の声。聞こえた方に向かう。一台の車に十人位の老若男女の人間が取り囲むように群がって居た。 車の中に女の子。助けを呼んでいる。 俺は駆け出した。車に群がって居た人間達が俺に気付く。俺は立ち止まった。誰もが血まみれで真っ白い顔。切れ切れになった服から見える肌も白い肌。まるで死人のようだった。 「あっち行け」 俺の出した声は唸り声だが、通じたのか誰もかれもが散り散りに車から離れていった。 俺は近付き、大丈夫かと声をかけようとした矢先に、また女の子は叫び声をあげた。 そうか、俺も血まみれだった。 車のサイドミラーを見た。鏡に映った俺は自分だったが、全く違っていた。他の人間と同じ死人のような顔をしていた。肌が白く、アルビノを思い出す。口元から首は血だらけ。オマケに両手がない。痛みが麻痺してる程、俺は重症なのか? 俺はゾッとした。だが気を失ったりパニックにならなかったのは、心のどこかで現実味が全くなかったからだ。 痛みがないので夢の世界だとすら思っていた。
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