◇019/そよぐ風の隙間から掴まえた君に僕は何を思う

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トントン、とドアが叩かれた。黒曜が慌てて榛原から離れる。照れた様に困った表情をしていた。 『アオイです。リアンさんとアイゼンさんが戻りました』 「ありがとう、アオイ君。もうここ、解放するよ」 榛原がアオイに応えるとアオイがドアを開け、リアンとアイゼンが重い表情のまま入って来た。リアンの手には封書が携えられていた。 「シンハラさん、どうしてここに…」 「ちょっと外せない用事があって、さ」 「…丁度良かったです。お願いしたい事がありまして、あとで聞いて貰えますか?」 ぎゅっ…と封書が握られた。茶色い紙が小さくくしゃりと鳴いた。 「イーヴル、黒曜さん、アオイ。これからの指示を出します」 疲れきった表情のリアンが静かに言葉を紡ぎ出す。 「僕とアイゼンはもう暫くこちらに残ります。残務がありますから。イーヴルと黒曜さんとアオイは撤収を行い、運転の2人とともに中央へ先行帰還して下さい」 「了解」 「それとイーヴル。帰還後は暫く壁仕事はないから、僕が戻るまで通常業務の割り振りを任せたい」 「いつ戻る?」 「…わからない」 「それの関係か?」 リアンが握り締めている封書を指し示す。 「あぁ、そうだ。僕にとってとても大事な事だ。個人的案件になるが、どうしても外せない」 「…わかった。やっておく。俺達はいつ帰還を始めれば良い?」 「いつでも」 ふぅ…と一息ついて考える。いつ中央への帰還を開始するか。明日にしても良いが、きっとリアンは独りを求めているであろう。 「黒曜さん、アオイ。もう帰還をしようと思う。すぐに準備は出来るか?」 「そうだね。その方が良い」 イーヴルが黒曜とアオイを引き連れて帰還準備に入る。壁際に寄せてある荷物を纏めるべく、榛原の前を通過しようとした。 「うわっ!」 突然イーヴルが叫んだ。彼の右手はイーヴルよりも小柄な榛原によって拘束され、彼自信は壁に押し付けられていた。あまりにも一瞬の出来事だった。 「──」 榛原がイーヴルに何かを耳打ちする。それは他の者には聞こえない。 「わかっていますよ。俺にとって軽い事じゃありませんから」 「…上等だ」 リアンのブレードとアイゼンのライフルは置いて行く。3人は自身の荷物を纏め抱えると、早急な撤収帰還を行った。 ──────────────── ──『たとえ血が繋がっていなくても僕の妹だ。これからはもう僕の手から離れる。あとは任せるよ』 もう離れるべきなんだ。いつまでも擁護される様では駄目だ。榛原の腕に守られていた小さな黒曜ではない。黒曜には、表に出さなくとも背中を任せる人がいる。もう託すべきなんだ。 「わかっていますよ。俺にとって軽い事じゃありませんから」 「…上等だ」 そよぐ風の隙間から掴まえた黒曜は、榛原の手からイーヴルの手に託された。 ──────────────
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