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トントン、とドアが叩かれた。黒曜が慌てて榛原から離れる。照れた様に困った表情をしていた。
『アオイです。リアンさんとアイゼンさんが戻りました』
「ありがとう、アオイ君。もうここ、解放するよ」
榛原がアオイに応えるとアオイがドアを開け、リアンとアイゼンが重い表情のまま入って来た。リアンの手には封書が携えられていた。
「シンハラさん、どうしてここに…」
「ちょっと外せない用事があって、さ」
「…丁度良かったです。お願いしたい事がありまして、あとで聞いて貰えますか?」
ぎゅっ…と封書が握られた。茶色い紙が小さくくしゃりと鳴いた。
「イーヴル、黒曜さん、アオイ。これからの指示を出します」
疲れきった表情のリアンが静かに言葉を紡ぎ出す。
「僕とアイゼンはもう暫くこちらに残ります。残務がありますから。イーヴルと黒曜さんとアオイは撤収を行い、運転の2人とともに中央へ先行帰還して下さい」
「了解」
「それとイーヴル。帰還後は暫く壁仕事はないから、僕が戻るまで通常業務の割り振りを任せたい」
「いつ戻る?」
「…わからない」
「それの関係か?」
リアンが握り締めている封書を指し示す。
「あぁ、そうだ。僕にとってとても大事な事だ。個人的案件になるが、どうしても外せない」
「…わかった。やっておく。俺達はいつ帰還を始めれば良い?」
「いつでも」
ふぅ…と一息ついて考える。いつ中央への帰還を開始するか。明日にしても良いが、きっとリアンは独りを求めているであろう。
「黒曜さん、アオイ。もう帰還をしようと思う。すぐに準備は出来るか?」
「そうだね。その方が良い」
イーヴルが黒曜とアオイを引き連れて帰還準備に入る。壁際に寄せてある荷物を纏めるべく、榛原の前を通過しようとした。
「うわっ!」
突然イーヴルが叫んだ。彼の右手はイーヴルよりも小柄な榛原によって拘束され、彼自信は壁に押し付けられていた。あまりにも一瞬の出来事だった。
「──」
榛原がイーヴルに何かを耳打ちする。それは他の者には聞こえない。
「わかっていますよ。俺にとって軽い事じゃありませんから」
「…上等だ」
リアンのブレードとアイゼンのライフルは置いて行く。3人は自身の荷物を纏め抱えると、早急な撤収帰還を行った。
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──『たとえ血が繋がっていなくても僕の妹だ。これからはもう僕の手から離れる。あとは任せるよ』
もう離れるべきなんだ。いつまでも擁護される様では駄目だ。榛原の腕に守られていた小さな黒曜ではない。黒曜には、表に出さなくとも背中を任せる人がいる。もう託すべきなんだ。
「わかっていますよ。俺にとって軽い事じゃありませんから」
「…上等だ」
そよぐ風の隙間から掴まえた黒曜は、榛原の手からイーヴルの手に託された。
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