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◇022/離脱を望む者
◇022/離脱を望む者
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「なぁ、イーヴル」
「何?」
「それ、どうするつもりだ?」
座敷のテーブルの向かいに鎮座するアイゼンが『それ』と称するモノ。
「あぁ、いいよ。あとで連れて帰るから」
右手にはグラス。左手でさらりと、自身の足を枕に寝ている『それ』を撫でる。
「大方また、ろくに寝ないまま付いてきたんでしょ?いつもの事じゃん」
「いや、それはそうなのか?」
にごり酒が入ったグラスを片手に、イーヴルの足に目をやる。黒いさらりとした髪の持ち主が、そこで静かな寝息を立てている。
「こうなったらどうせ、朝まで起きないよ」
「…お前、慣れ過ぎだろ」
いつもの居酒屋、見慣れた座敷。ここのスタッフもいつもの事と、ブランケットを貸してくれる始末。
食事も終わり、暫く経つ。当初は5人でいたのだが、リアンとアオイは次の日も朝からだからと早々に離脱。そこから3人で静かに飲んでいた訳なのだが、気が付けば寝落ちたのが1人。
手に取ったグラスをそれぞれ空にする。もう切り上げるつもりだった。
「先に会計して来る」
アイゼンがリアンとアオイから預かった現金を手に立ち上がった。
「宜しく」
イーヴルは寝落ちている黒曜の身体をそっと起こすと自分の上着を着せた。黒曜の上着を着せるよりも、少し大きめの自分のを着せる方が遥かに楽だからだ。
戻って来たアイゼンに、自分と黒曜の荷物も預ける。いつも通り黒曜を背負うと、アイゼンと共に夜の中央都市の道を歩き始めた。
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「悪いな、アイゼン」
「何が?」
「荷物、全部持って貰ってさ」
「お前の方がもっとでっかいのを背負ってんじゃん」
「確かに」
肌寒い夜道をのんびりと歩く。店舗から近いのはイーヴルの自宅だ。黒曜の自宅はそこから更に先となる。
「アイゼン、良かったらうちでもう少し飲んでいかないか?」
「は?」
「俺、アイゼンと話すのを避けていた気がしてさ。ゆっくり話してみたいんだ」
足を止めたイーヴルに気付き、アイゼンが振り返る。髪の色と同じ鮮やかなオレンジが、至極真剣な眼差しでアイゼンを見ていた。
「あぁ。じゃあちょっと待ってろ。そこのコンビニで飲む物を買って来る」
歩道に黒曜を背負ったままのイーヴルを残し、アイゼンは買い出しに向かった。
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