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イーヴルが住むマンションにはオートロックがない。その分、周辺の同条件の物件に比べ、家賃が少し安かった。男の独り暮らしだし何より彼も軍人だ。何かあっても対処出来るだろうと、少しでも安い物件を選んだ。
部屋も中途半端な階層の奥から2番目。
玄関に取り付けられたシリンダー錠に、ありがちなキーを挿す。上下2つなので、黒曜を背負ったままだと少し大変だ。
「開けるぞ」
錠が開いたドアをアイゼンが開けていてくれる。もぞもぞと靴を脱ぐと手探りで照明のスイッチを入れた。明るくなった自宅を進み、イーヴルが自分のベッドに黒曜を下ろした。着せていた上着を脱がせ、衣類を緩める。随分と手馴れていた。
預かっていた黒曜の眼鏡とヘアピンは纏めてヘッドボードに置く。肌掛け布団をそっと掛けると、その場を離れアイゼンの元へ行く。
「その辺に座ってなよ。氷とグラスを持って来る」
アイゼンがローテーブルの前に座り込む。足元には雑誌が数冊。見るからにアイゼンとは縁がなさそうな専門雑誌だった。
「はいよ」
ことり、とテーブルにグラスが置かれた。それを見て、アイゼンが買って来た酒缶を広げる。
「こっちのは黒曜が起きたらくれてやれ」
1本だけ入っていたペットボトルはイオン飲料。酔って寝てしまった黒曜の為の1本だ。それは冷蔵庫に仕舞った。
それぞれ1本ずつ缶を手に取ると、グラスに注ぐ。居酒屋での酒も良いが、こう言う飲み方も彼等は好きだ。
「で、イーヴル。何を話したい?」
以前もそうだった。イーヴルが誘う時には必ず何かある。重要な何か、が。
「…イーヴル?」
グラスを手にする事もなく、憂いた表情を見せているイーヴル。長年付き合いがあるアイゼンですら、そんなイーヴルを見た事はなかった。
「アイゼン」
「何?」
「俺、6隊からの離脱を考えているんだ」
はっきりと発せられたその言葉は、衝撃でしかなかった。
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