◇022/離脱を望む者

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話し声が聞こえる。煩い訳ではないが、それは眠りを妨げた。ゆっくりと身体を起こす。薄暗い部屋ではあるが、ここが自宅ではない事に気が付いた。だが見覚えはある。この寝具カバー、この部屋の配置。何度も見た。 ──イーヴルの自宅か…。 自分の行動を思い返せば当然の結果だ。ここの所、ろくに寝られていない。それには理由がある。今後の事を深慮していた。 そんな中、いつものメンバーで飲みに出た。ろくに寝ていない状態で飲めば、眠気には勝てない。きっとイーヴルが背負い、ここへ寝かせたろだろうと簡単に推測出来た。 ──喉が乾いた。 水分を補給しようと、リビングとの境界まで近付いた。引き戸の取っ手に手を掛けた所でアイゼンとイーヴルの会話がはっきりと聞こえた。 『イーヴルは…離脱したいんだな?』 『あぁ。もう人を撃てるとは思えない。もうここで役に立つ事は出来ない』 『…そうか』 重い話をしている。 ──イーヴル…。アイゼンに話したのか。 黒曜は、相手がアイゼンで助かったと感じた。アイゼンなら不用意に口外はしないだろう。たとえリアンにも、不必要に喋る事はない。それが重要な事程、その辺は弁えている。 はぁ…。ひとつ息を吐いた。イーヴルから話をされ、ずっと考えていた事だ。離脱を望むイーヴルに、黒曜が出来る事。道は1つだと思っている。 引き戸に手を掛けた。静かにそっとそれを開ければ、イーヴルとアイゼンが驚いたようにそちらを見た。当然、言葉は出ない。 「…喉が乾いた」 何も聞いていない振りをしながら、しれっと2人の後ろを通過する黒曜。 「イーヴル、グラスを借りるよ」 キッチンに置かれている水切り棚にはグラスはない。仕方ないからキッチンボードからグラスを1つ手にした。 「あぁ、黒曜さん」 「…何?」 イーヴルがいつも通りの笑顔で黒曜の傍に来る。冷蔵庫を開けると、冷えたペットボトルを1本手渡した。 「はい。これ飲みな。アイゼンが用意してくれたから」 青いラベルが巻かれたペットボトルのキャップを開け、中身をグラスに注ぐ。それを飲めばアルコールによって失われた水分が補われる感じがする。 「アイゼン、ペットボトルをありがとう」 もう1杯飲んだところでグラスを洗い、水切り棚へひっくり返して置いた。 「…イーヴル、ありがとう。僕を寝かせてくれて。じゃあ、おやすみ」 そう告げると黒曜は再びイーヴルのベッドへと潜り込んだ。やるべき事は決まった。 ──────────────── 早朝5時。隣で眠るイーヴルを起こさないように黒曜は行動を始めた。そっとオレンジの髪を撫でてからベッドを出る。 「イーヴル。今度は僕がイーヴルを守る番だから」 引き戸を開けてリビングに踏み込めば、ラグで毛布に包まるアイゼンを目にする。 「アイゼン、イーヴルの話を聞いてくれてありがとう」 冷蔵庫を開けると、アイゼンがくれたペットボトルを取る。簡単に支度をすると、黒曜はイーヴルの部屋から司令部へと歩き始めた。 早朝の空気は冷たく、正直こんな時間から歩きたくはなかったが、どうしてもの用事が出来たから仕方がない。 ─────────────
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