◇022/離脱を望む者

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ガン、とリアンのマグカップが雑に置かれた。反動で中のコーヒーが少し跳ね上がる。 「僕がここに来た理由はシュタールとシンハラからの指示で、ここをアイゼンの壁にする事。メンテナンスや後方指揮はそれの付随業務。…それでも、ここの居心地が良かったからこのままでいたいと思っていたよ。…先日まではね」 「黒曜はここのメンバーだ。これからも仕事をして下さい」 「どうしようか。隊長はイーヴルを切り捨てる気だろ?態度を見ていればわかる」 「…イーヴルはもう使えない。ここは特殊部隊なんだ」 「そんな事は知っているし、僕だって理解しているさ。だがな、持って行き方ってものがあるだろ?」 「…意外だな。僕より黒曜の方が冷たいと思っていたんだが。…あぁ、そうか。イーヴルに絆された訳か」 ぱんっ! 事務室に響いたそれは、黒曜がリアンの頬を叩いた音。 「隊長、僕、所用があってこれから暫くここを離れるから。本当はイーヴルを護衛に連れて行きたかったけど、今回は単独で出掛ける」 「どうぞ」 「僕の背中を傷付けた事、許さない」 最後にそれを言い残し、黒曜は事務室から立ち去った。 ────────────── 残されたリアンは頬を撫でる。思っていた以上のダメージに驚いた。 「随分と嫌われちゃったな…」 怒り、悲しみ、呆れ。どれとも言える黒曜の表情。確かに彼は黒曜の背中を傷付けてしまった。 「…仕方なかったんだ」 そうは言っても、もう取り戻せない。あの場面で彼はアイゼンではなくイーヴルを選択した。命を摘み取る為のアシストをイーヴルにやらせた。まさかそれがトリガーになるとは思ってもみなかったと言うのが本音。そこからイーヴルが崩壊するのは想定していなかった。 「悪いとは思っている。でも、アリスを殺める為にはイーヴルと言う切り札が必要だったんだ…」 言い訳だと取られてもおかしくない。理解しながらそれを口にした。 ───────────── イチサンマルマル。 イーヴルが事務室に登営した。起きた時に黒曜の姿がなかった事に心配し、携帯に掛けるも黒曜は応答しなかった。ここに来ればいるかと思ったが、黒曜が登営している様子はない。 リアンの姿もなく、事務仕事に就いていたアオイにそれを尋ねた。 「いえ、知りません。僕、今日は黒曜さんに会っていませんよ?」 予定表にも黒曜の行動が残されていない。当然、アイゼンも知らない。 ──アイゼンとの話、聞かれたかな。 別に黒曜に聞かれて困る内容ではないが、余計な心配はさせてしまっているだろう。 何も言わず姿を消した黒曜の真意が見えない。黒曜はどうしたのだろうか。 心配しても、イーヴルに黒曜を追跡する術はなかった。 ────────────── 2021/03/20/022
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