◇023/離脱を告げた者

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◇023/離脱を告げた者

◇023/離脱を告げた者 ────────────── もう2度と足を踏み入れる事はないと、黒曜は思っていた。黒曜にとってこの建物は嫌な想い出しかない。つまらない事で疎まれ、散々な思いをした場所だ。だが、良い事もあったのは確かだ。アインスに認められ、榛原と出会った。 だからこそ、今の黒曜が存在する。 ここは西方管轄区、エンジニア班が拠点とするエリアだ。どの管轄区にもエンジニア班は置かれているが、西方は群を抜いている。ここで技術を磨いた者が、各地へ派遣されて行くのだ。 黒曜もその1人と言えよう。元々は黒曜もここの人間だ。アインスには目を掛けて貰っていたのだが、他の者に疎まれ燻っていた。それを榛原が遊撃班へと引き抜いた。そして今や中央管轄区の特殊部隊だ。 深呼吸をして、気持ちを整えてからその建物へと足を踏み入れた。黒曜がここを離れてだいぶ経過している。事務受付にいる職員は知らない人に変わっていた。 「中央管轄区司令部即応部隊第6小隊の黒曜と申します。アインス主任をお願い致します」 自身の身分証を提示しながら名乗り、アインスの呼び出しを依頼する。職員は黒曜の身分証を丁寧に確認すると、アインスへ連絡を速やかに取った。アインスは宛てがわれた自室にいると言う。そこへ黒曜は案内された。 懐かしい、とは思えない。あまり良い想い出がないからだ。それでもかわらない建物内部に、少しだけ黒曜は感傷に浸ってみた。 ──────────────── 「やぁ、黒曜。急にこんな場所までどうした?」 書類や書籍が積み上げられたアインスの部屋は研究熱心なエンジニアそのものを表している。それに対して黒曜は何も思わない。何故ならば黒曜も、研究用の自室を宛てがわれたらこうなる自信が存分にある。 コーヒーが入れられたマグカップを差し出された。それを受け取り、何とか座れる椅子を探し出しそこへ腰を下ろす。 「主任、お願いがあります」 「ん?何?」 「何年か前、一緒に北方へ行きましたよね」 「…北方?あぁ、駐屯地の通信機材メンテナンス?」 「そこの責任者を紹介して欲しいんです」 ────────────────
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