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「なぁ黒曜、理由は?理由も聞かず、紹介なんて出来ないさ」
「確かあの駐屯地、専属エンジニアがいないんですよね?…そこへ異動したいな、と思って」
アインスが驚いた表情を見せる。マグカップも落としそうな勢いだった。
「…異動?」
「僕、6隊からの離脱を考えています。教えてくれたシンハラには申し訳ないけれど、もう後方指揮をしたくないんです」
「何を…黒曜、どうした?」
「僕は背中を傷付けました。隊長の指示に待ったの補正を掛けられませんでした。だから…僕の背中であるイーヴルを傷付けました」
「黒曜、レキをここに呼んでも良いか?これ、俺だけで考えたらいけない案件な気がする」
紹介に関してはアインスでないと無理だろう。だが確かに、現場に関しての事はアインスには無理な話だ。榛原にも入って貰った方が黒曜としては可でも不可でも納得出来るだろう。
「わかりました。シンハラにも聞いて貰いましょう」
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榛原が来るまでの間、アインス黒曜とは他愛もない事を話した。今いる6隊の話を機密が絡まない程度に。アインスは6隊のメンバーの殆どを知らない。知っているのは黒曜とイーヴルのみ。黒曜の携帯に入っていたアオイの画像を見て食い付き気味だったのだが、黒曜はあまり深く話すのは止めておいた。
「アインス!」
その内、榛原がアインスの部屋へと飛び込んで来た。カフェのペーパーバッグを提げながら、書類と書籍に埋もれた部屋へと踏み込んだ。
「黒曜!どうしてここに!」
「シンハラ。アインス主任に頼みたい事があるんだ。でもそれにはシンハラにも聞いて貰わなければならないんだ」
黒曜は今の望みを告げた。とにかくもう離脱をしたい。無責任だとわかっていながら、それを告げた。
シュタールと榛原からの仕事は既に終わっている事。
それでも居心地の良さからこのままいたかった事。
各種メンテナンスにおいて、イーヴルのアシスタント振りが優秀な事。
それに対して信頼している事。
後方補正指揮の時、イーヴルに背中を守って貰える事の安心感。
その背中を自分の力が足りなくて傷付けてしまった事。
その背中をリアンが傷付けた事。
もう戦場と言う現場にて自分の背中を信頼する人に守って貰えない事。
温情と非情が乖離してしまって、隊長から自分達を大事にして貰えないと確信してしまった事。
そして自分も、もう隊長を信頼する事が出来そうにない事。
黒曜は内に秘めたモノを全て、榛原とアインスに吐露した。
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