◇023/離脱を告げた者

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この地を訪れるのは4年振りだった。あの時はアインスと一緒にこの建物を見た。あの時と違うのは雪がない事と、隣にアインスがいない事だろう。中央や西方に比べたら気温は低いが、雪が降る程まだ寒くはない。 アインスが事前に中継ぎをしてくれたお陰で、スムーズに目的の人物と会う事が出来た。彼は4年前もここの責任者として出迎えてくれた。 「お久し振りです」 黒曜がそっと右手を差し出した。彼も右手を差し出した。 「今日はどう言ったご要件で?」 「ご相談をしたく、お伺いしました」 「相談、ですか」 2人は廊下を並んで歩き、応接室へと向かった。4年前は余裕もなくアインスに付いて行くばかりの黒曜だったが、今は違う。建物内部もゆっくり見る余裕がある。 「どうぞ」 促されるままに案内された部屋のソファーに腰を下ろした。 ──────────────────── 「あれから通信機材の調子はどうですか?」 「問題なく稼働してくれています。またメンテを依頼しなくてはいけない時期になりますね」 この地は北方管轄区の駐屯地。地方の更に地方となる。そこまで大きくない駐屯地故に、専属エンジニアは存在しない。10年以上前には外部エンジニアが定期的にメンテナンスをしてくれてはいたが、諸事情から彼はもう来られない。何とか派遣エンジニアが手を施そうとしたが、結果西方に高度エンジニアの派遣を要請する事となった。 「その件なのですが…」 「?」 「不躾にお願いする事をお許し下さい」 「何を、ですか?」 「…私と私の部下を貰い受けて下さいませんか?」 「はい?」 北方駐屯地責任者は、当然言われた事を理解しきれない。あまりにも突然すぎる内容だ。理解しろと言う方が無理だ。 「何年か前、私は元上官とこちらの設備メンテをさせて頂きました。その際に元上官より、ここには専属エンジニアが不在だと言う事を聞きました」 「確かにそうです。ここにエンジニアはいません」 「私は今でこそ中央管轄区所属ですが、西方エンジニア班に所属しておりました。…何よりも」 黒曜は持って来たバッグから2枚のファイルを取り出した。1枚は自分自身の資料が収められたもの。もう1枚は…。 「彼をご存知ですよね?」 もう1枚はイーヴルの資料だった。 ───────────────
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