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少し前に踏んだばかりの中央の地。何度も思うが、彼はここの風が好きではない。着慣れない青い通常軍服に身を包んだ男は迷う事なく中央管轄区司令部を目指した。普段なら立ち寄る事のない建物だ。
自身の身分証を通し、その建物へ踏み込む。事務局で目的の場所を聞き、そこへ向かう。
彼が目的の部屋に向かうのは2回目だ。
1回目はもう10年も前になる。彼が壁になる直前の事だった。
──あの時に来た部屋を、今は6隊が使っているのか。
不思議な気分になった。
あの時と変わらないドアを、今度はきちんと叩いた。
「どうぞ」
穏やかな声が返って来た。彼はこれからこの声を乱す。
「やぁ、急に伺って悪いねぇ」
部屋の中でリアンとアオイが事務仕事をしていた。他のメンバーは不在だ。
「シンハラさん、どうしたのですか?」
「リアン君に用事があってね。…あれ?2人だけ?黒曜は?」
「黒曜さん、暫く姿を見ていないんですよ。どこに行っているかも残してなくて、携帯に掛けても出てくれないんです」
榛原の問い掛けに答えたのはアオイだ。黒曜は西方に立ち寄ってから北方へ行っている。中央には行き先を告げず、出掛けているようだ。
「ふーん、そう。…じゃあイーヴル君は?」
ぴくり、と僅かではあるがあからさまな反応を示したのはアオイだった。イーヴルに関しては何かあった、そう榛原は判断する。
ゆっくりとリアンのデスクに近付く榛原。デスクの上に、1通の封書が置かれている事に気が付いた。それは人事局宛の封書。
「ねぇリアン君。…これ、何?」
普段のような軽さはない榛原の問い掛け。榛原の表情を見ればわかる。軽々しく誤魔化せる状態ではない。
「イーヴルの退役に関する書類です。先程勧告をしました。…イーヴルは…受け入れてくれました…」
「…なっ!」
──駄目だ!それを提出させてはいけない!
「…ねぇリアン君。その書類、僕にくれないか?」
「何故ですか!」
デスクの封書をリアンが手に取る。軽率に渡す訳には行かない、それは隊長として適切な判断だ。
「まだイーヴル君を手離す訳にはいかないからだ!」
「だったら。だったらシンハラさん!僕からこれを奪ってみせて下さいよ!」
「…上等だ」
リアンは封書をアオイに預ける。室内故にブレードはない。リアンから見る限り、榛原は丸腰に見えた。身長もリアンの方がずっと高く、体格も上だ。パワーだけなら確実に榛原を押さえられる。そうリアンは判断した。だから挑発して榛原を潰そうとした。
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