◇019/そよぐ風の隙間から掴まえた君に僕は何を思う

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「シンハラさん」 それまでずっと黙ったまま同席していたイーヴルが、初めて言葉を発した。彼は同席しているとは言え、本質的には部外者だ。だからあまり干渉する事はしないつもりでいた。だがそれは話の内容全てに納得出来たとしたら、だ。彼はまだ、納得していない。まだ不明な部分がある。それをそのままにしてはいけない。 「シンハラさん、どうしてそれをシュタールさんと菫さんに言わないのですか?どうして黒曜さんにも黙っていたのですか?あんなに傍にいたのに。『知っておきながら』何故黙っている事を選んだのですか?」 イーヴルが言う事も尤もだ。自分達には秘密にしろと言っておきながら、その理由はまだ告げられていない。 「そうだよね」 口許に手をやり、どこまで言って良いものかを深慮する榛原。管理課案件故に機密が絡む。言える部分と言えない部分が存在する。そして当事者である自分ですらきっと知らない部分もある。 「…僕側の話だよ、これは。もし菫ちゃんがシュタールの傍にいなかったら、僕の手の届く範囲にいなかったら、黒曜が僕を覚えていたら。きっと僕はすぐ黒曜に伝えたと思う。でも実際には菫ちゃんは僕の手が届くシュタールの傍にいて、黒曜は僕を覚えていなかった。…色んな関係を崩したくなったのが本音」 本音は自己都合だ。 「でもね、それとは別で言えない事情もあったんだ。…聞いたとして君達は黙っていられるのかい?」 「…管理課でも絡むんですか?」 「何故?」 「シンハラさんは表向きは一端の班長の様に振る舞っていますが、実際には結構な特権を持っている様に見えます。確かにシンハラさんも管理課を隠す壁ですが、それ以上に何かあるのではないですか?」 イーヴルが鋭く切り込む。 「アイゼンとリアンは軍学の頃からバディです。それでもリアンだけが壁になるのではなく、6隊全部で壁になりました。…でも貴方は?貴方とユーディさんだけが壁です。特例ではないのですか?」 「あーもう。イーヴル君、君には敵わないね。別に特権って訳じゃない。僕は僕個人の感情からシュタールの背中を1人で背負うと決めたんだ。それは管理課への感謝と恩義だ。何故ならば君達を保護しようとし、僕を生かしたのが管理課だからだ」 「それだけですか?」 「…何が言いたい」 2人の間にピリッとした空気が流れる。 「言っていない事、たくさんありますよね?俺が邪魔なら離席します。でも黒曜さんには全てを教えて下さい。黒曜さんは『当事者』なのですから」 それを言うとイーヴルは席を立ち、榛原と黒曜を残し部屋から出て行く事にした。本当は黒曜の傍にいるべきだ。だが話の内容を考えたら榛原と黒曜の2人でするべきだ。 「…ごめんね、黒曜さん」 備え付けのポットを使い、4人分のインスタントコーヒーを淹れる。2つは榛原と黒曜の前に置き、残る2つを手にしたままイーヴルはその部屋を出た。 ───────────────
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