あなたに会いたくて~星降る夜に~

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仕事終わりのビルの屋上。 私は、ひとり夜空を見上げていた。 今晩は、本当に雲ひとつない綺麗な夜空だ。 「...だけど、私の心は曇だらけ」 「あぁ~あ、もうどっかからイケメンでも落ちてこないかなぁ~。ただし、性格も良いに限る!!(笑)」 そんな都合の良いことあるわけない。 昨日、自慢のイケメン彼氏が複数の女性と浮気をしていることが発覚し、別れた。 いや、私が浮気相手だったのか...? もうそんなことはどうでもいい。 そのおかげで、今日は仕事も散々。 集中力はないし、ミスもしまくり。 上司には叱られて、もう帰れと言われたけれど、なんとか最後まで持ちこたえた。 その方が周りには、迷惑だったかな...? 死人みたいな顔して仕事場にいる女。 みんなごめんなさいね。 哀れな三十路女を許してちょうだい。 ポタポタ... あれ?雨かな...? 頬に水滴が何粒か当たった。 っと思ったら... 「あぁぁあーーーーーっ!!!」 ドスンッ!! 「いってぇ...」 「いたたたた...」 急に目の前が真っ暗になった。痛くて重い… 何事...!?何が起こったの...?? 恐る恐る目を開けると、そこには... つい先程、夢にも願ったイケメンが。 「...あなたは誰?何で空から降ってきたの!?」 混乱しながらも、慌てて問いかける。 「...いってぇ、ちゃんと受け止めろよ」 「...はぁ?...いきなり落ちてきて何よ!?」 「ハハッ、勝ち気なところは、相変わらずだなぁ…?(笑)」 ますます訳がわからない。 こんな男の子に会ったことはないし... 一体どこの誰やら。 「...私たち会ったことある…?…ないよね?」 「うぅーん、ないといえばないけど、あるといえばある。というか既にいるんだなぁ、きっと!」 「…はぁ?どーゆうこと?  なんなの、ハハッ、変なナンパ…?  オバサンは、疲れてんのよ。  からかわないで!!」 もう私は疲れている。夢をみているのか。 「ハッハッ!!やべーな(笑)んなことするわけないじゃん!!」 イケメンは、爆笑している。 もう訳がわからない。 「とりあえず、時間がないんだ」 「え?」 「上を見てみろよ」 「え?」 あぁ...そうだ。 今日は星が降る夜だった。 とても珍しい流星群が観測できる日だって、今朝のニュースで言ってたっけ。 星がたくさんミゾレのように流れている。 「あぁ...綺麗ね...心が洗われるようだわ」 「そりゃよかった。その心を忘れんなよ。 もう変な男にばっか捕まってんじゃないよ、もう…ハァ。 でもな、あんたの人生にとって、たった一人。たった一人だけ、とてつもなく大事な男が現れるから、その時を待て(笑)」 「...はぁ...?あんた私の何を知ってんのよ...」 「あ、あとそうそう。たとえ、もしその男がいつかいなくなったとしても、それは見えてないだけで、側にいるってよ!(笑)じゃあな!!」 「もう今日、私は疲れてんのよ。 冗談はいい加減にしてって...あれ?」 ふり返るとイケメンが消えていた。 空を見上げると、星たちも消えていた。 「あれ...?なに...コワッ。何なのよ。何だったのよ...」 静かな夜に不思議な体験だった。 それから、しばらく経って 私は妊娠していることが発覚した。 最低な元彼の子だったけど、とても愛しい存在で、私は1人で生み育てる覚悟をした。 毎日お腹の中の子を慈しみ、やがて男の子が産まれた。 この子の為なら、何だって乗り越えられると確信した。 シングルマザーで子育てをすることは、決して楽ではなかったけれど、仕事との両立を必死で頑張った。 中には、私のパートナーとなり共に子育てをし、支えてくれるという男性も現れたが、何せ男性を見る目がない私は、あの日の彼の言葉を思い出し、 「フフッ、確かにね(笑)」 と、笑いながら思いとどまった。 幸い、息子はスクスクと健康に育ってくれていつの間にか私の身長を超すほどにまで、大きくなってくれた。 ある晴天の日、その日は本当に雲一つない快晴の日だった。 そんな日に、息子は亡くなった。 水難事故だった。 友人たちと山にバーベキューに行った時に、隣で大きな川があり、そこで子どもたちが遊んでいた。 その子どもの中の一人が、急流に押し流され、泳ぎと体力に自信があった息子が助けに飛び込んだそうだ。 その子どもは、何とか助かったが...... やはり、息子はそのまま息を吹き返すことはなかった。 その日もまた星が降る夜だった。 哀しみの波が押し寄せ、涙は枯れるまで出続けた。放心状態で、何もする気にはなれなかった。 相手の子どもを恨んだこともある。 何故私の息子が...と後悔の念に苛まれたことも。 その度ごとに、あの夜の日の光景が思い浮かんだ。 あの日の彼の言葉、星が流れる夜空。 彼はきっと、私が誰かを恨むことなんて望んじゃいない。 わかっていた。 知っていたんだ。 きっと、そのために彼は... 彼は、あの日、あの夜の日、私に会いに来てくれた。 あの星の降る夜に会いに来てくれたのは、 私のお腹の中にいたあの子だった。 あの夜の日、私は奇跡に出会ったんだ。 それから、何処からともなく、頬に水滴が落ちてくることが度々あった。 空を見上げても、雨ではない。 「フフッ...」 きっとあの子が側にいるんだ。 そう思った。そう思うと心があたたかくなった。 生きていけると思った。 あの夜の日の出来事は、きっと 神様が起こしてくれた奇跡。
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