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「南君、最近何か事件とか無いの?」
「絵梨さん、先週あったじゃないっすか」
「そうだっけ?」
2人は何やら事件がどうのこうのと話している。
翠は気になって耳をそばだてる。
「なんかさ、嫌な予感がする」
「嫌な予感っすか?」
「事件の香りが」
「何言ってんすか」
キメ顔で答える絵梨に対し、南はすかさずつっこんでいる。
一方の翠は事件という言葉にピクリと反応した。
事件?
なんだろう。
翠は聞き耳を立てることに集中していた為、隣から聞こえる声に気づかなかった。
「ねぇ、君高校生?」
「…ん、うわぁぁ」
翠は、危うく椅子から落ちる所だった。
隣で話しかけて来たのは、先程、テーブル席で話していた男女だった。
「…あ、はい」
「うわぁ、若いねぇ!私、佐倉絵梨!大学2年生だよ」
突然の自己紹介に戸惑う翠を他所に、隣からひょっこりと顔立ちの整った男性が顔を出す。
「絵梨さん、どうしたの__ってわ!」
「君可愛いね!高校生??」
横から出てきたのは顔立ちは整っていても、初対面の翠に対して発した言葉から軽薄そうに見えた。所謂、残念系イケメンだ。
「……」
正直引いた。
横では絵梨が彼の頭を叩いている。
「…いてて、あ、俺、倉田南!よろしくね!えっと…」
「立華翠です」
本当は名乗りたくなかったが致し方なくだ。
それに悪い人では無さそうだと思ったので一応自己紹介をした。
「翠ちゃんかー、よろしくね!」
いきなりちゃん付けとは、やはりチャラ男か、と翠は心の中で思う。
「翠ちゃんかー、可愛い名前だね」
一方の絵梨は、優しそうな女性という感じの一方、好奇心旺盛さも感じられる。
要するに幼い。
「…はぁ、どうも」
ーーー南無妙法蓮華経…………
その時、どこからかお経が聞こえた。
(お経……!?)
すると先程まで話していた南がポケットから携帯電話を取り出す。その携帯電話からあのお経が聞こえたことから、お経は南の携帯の着信音だったようだ。
(いや、着信音がお経って…)
色々ツッコミたいが、電話を邪魔してはならないと思い、まだ湯気が立ち上る珈琲を口にする。
「─────はい、もしもし。__え?無理っすよ!……あぁ、はいはい、わかりましたー」
南は電話を切る。
「何だったの?」
絵梨が聞くと、南は少し困った顔をして答える。
「蒼さんが、なんか忙しいから現場に向かえって」
「現場って……事件?」
「そっすね」
話の分からない翠は珈琲を飲み、聞いてないフリをした。
「……で、殺人?」
「そっすね」
「でも私たち、ダイイングメッセージを解くとか出来ないよ?そもそも文系すら得意じゃないし」
「俺もっすよ」
「……!」
その時、翠が"文系"という言葉に反応していたのを2人は見逃さなかった。
「翠ちゃん、もしかして文系コース?」
「……えぇと、はい」
翠は苦笑いで答える。
その瞬間、絵梨に首根っこをむんずと掴まれ、引き摺られた。
「ちょ、ちょっと、何を…!?」
「今から現場に、行くから翠ちゃん来て!」
「えぇ…!」
翠は、南に助けを求めるが、南は他所を向いている。
わざとだ、絶対わざとだ、と、翠は絵梨に引き摺られながら、恨みがましい目で南を睨みつけた。
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